島には、飼い主が置いていったイチゴが3粒。
「じゃあ、ジャンケンで決めようか。勝った人が2粒食べるんだよ」
クリームパフは言って、ムシクイのシューを見下ろす。
人間の感覚でも大粒のイチゴは、小さな島の中央ではまるで大きなオブジェのようだ。
最大サイズのはずのジュラファントの背中すら、心なしか小さく見えてしまう。
ムシクイの姿はそれ以上に小さく見えるが、その食欲はその外見を遥かに上回る。
食べ物には目がないシューははりきって、足をぐるぐると回して気合を入れている。
それを見たパフは目元だけで小さく笑って、瞬きをした。
軽い調子で一言付け加える。
「あ、そうそう、僕はチョキを出すから」
ハ?と言いたげにシューの目が丸くなる。
突然の宣言に混乱する相手に結論を出す暇を与えずに、クリームパフはかけ声を口にする。
「じゃんけん、ぽん!」
シューがとっさに足で出したのはグー。
そしてクリームパフはパー。パフの勝ち。
コノウソツキ!とばかりに怒り出したシューに、パフはくすくすと笑って言う。
「知らなかったかな、シュー。今日はエイプリルフールだよ」
ムシクイの動きが止まる。
「だからさっきのは嘘」
言われてシューは、頭の中で日付を確認する。
今日から4月だとわかった途端、その表情が悔しげなものに変わった。
小さい体で思いっきり地団太を踏んで、またぷんすかぷんすか怒り出す。
「どうして怒ってるの?つまり本当は、負けた人が2粒食べるってことになるんだけど」
シューの目が再び見開かれる。
くすくす笑いをようやくおさめて、クリームパフはイチゴを2粒シューの目の前に押しやった。
こうなると現金なもので、大喜びでシューはイチゴにかぶりつく。
あっという間に半分ほどを口にして、鋭い歯で噛み砕き、実に旨そうににやっと笑う。
大きな口で更にもう半分ほどを食べ進めて、ふと中断してパフを見た。
・・・ソレッテ、ナニヲダシテモオレガ2粒食ベルコトニナッタンジャナイカ?
ムシクイが首を傾げる。ジュラファントは、両手でイチゴを抱き寄せる。
「気のせいだよ、シュー」
おちゃめな瞳でそらとぼけて、パフは太陽の赤を吸い込んだ柔らかな実にそっとかじりついた。
|