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cacao cocktail


  


もうすぐ、甘く華やかなバレンタインも終わろうかという刻限。
勇気を振り絞っての告白が行われ、恋人達が愛を囁き、イベント広場が華やかに賑わっている頃。
秋霧のたなびく島には、変わらぬ静かな時が流れていた。
飼い主から贈られたバグチョコの僅かに鼻を刺激する香りと、薔薇の森の芳醇で少し青い香り。
小さな島に2種類の甘ったるい芳香が、薄い霧に混ざり溶けるようにして漂っている。
美しく咲き誇った薔薇から少し離れた場所で、1匹のムシクイが隅に座っていじけている。
何も言わなくても、全身に纏ったオーラがナンデちょこヲ誰モ持ッテコナインダと言っている。
特に貰う予定の相手がいたわけではないはずなのに、期待していたのか何なのか。
チェッと言いたげに軽くむくれて、これまた飼い主から贈られた、唯一貰ったコインチョコに歯形をつけると、ムシクイのジャッキーシューは後ろを振り返った。
振り返った先には見事な薔薇のアーチ。
その下では、ジュラファントの青年が分厚い本を読んでいる。
チョコを貰ってないのは同じなのに、それを全く気にしていない様子で、実に楽しげにクリームパフはページをめくる手を動かした。
その度に、襟足が長めのチョコレート色の髪がさらりと揺れる。
バレンタインに合わせて今だけ変えた髪の色は、茶色の薔薇の葉に良く似合っていた。
「あれ、チョコレートを使ったカクテルなんてあるんだ」
次のページに目をやったクリームパフが小さく呟く。
イッタイ何ノ本ヲ読ンデルンダと首をかしげ、お酒好きのシューはパフの近くに歩み寄った。
表紙を横から覗き込むと『カクテル大百科』と書かれている。
中を見ればカクテルの写真と作り方、味やちょっとした豆知識がフルカラーで紹介されていて、シューは一人納得した。
好奇心旺盛で本好きなこのジュラファントは、小説に限らず啓発本から辞書や専門書まで、色々な本を読んでは妙な知識を吸収している。
あんまりお酒も飲めないくせに、どうやら今度はカクテルに興味を持って、わかりやすそうな本を選んで図書館で借りてきたらしい。
「そういえば今日はバレンタインデーだったよね。後で2人で何か飲もうか?」
チョコレートが入ってるやつを、と付け加えて、パフは本から顔を上げるとシューに笑いかける。
そこにパフなりの気遣いを感じ取って、シューはにやりと笑って返事に変えた。
ちょこれーとジャナクテかかおりきゅーるだと、訂正するのは忘れない。
パフは小さく頷いて、そのこだわりを受け入れる。
「どれが美味しいのかな・・・『カカオ・フィズ』とかそのまんまの名前だけど。
これだけたくさんあると、どれを試してみるかを決めるにも苦労しそうだね」
シューに見えやすいように本を地面の上に置いて、クリームパフはシューに尋ねる。
ムシクイはしばし悩んだ後、オ前ナラコレガイインジャナイカ、と言いたげに、ページの端っこを薔薇色の足で軽く叩いた。
カカオリキュールを0.7ozに、コルンと生クリームを1ozずつ。
シェークしてカクテルグラスに注いだら、最後に刻んだチョコレートを振りかけるカクテル。
「『ダークミステリー』? ぴったりの名前だ」
推理小説好きの青年は柔らかく微笑む。
これは一回飲んでみたいなとの呟きに、シューも満足そうな顔になる。
その姿に、パフはもう一度嬉しそうに微笑む。ゆっくりと、ページをめくる。
「あ、『レディバグ』なんて名前のものがあるよ。
テントウムシだなんて、なんだかちょっと美味しそうな名前だね。ムシクイ向けかな?」
トンデモナイとシューはぶんぶん首を振る。
レディバグは、まるでイチゴチョコレートみたいな味の甘〜いカクテルだ。
ソンナ甘ッタルイノタップリナンテ飲メルカ、というのが、辛口好きの彼の言い分らしい。
「でもカカオリキュールを使ったので、甘くないのってなさそうだよ?
『アレキサンダー』、『キングアルフォンソ』、『テネシーワルツ』、『バーバラ』・・・」
目に付いた名前を、ひとつひとつパフは挙げていく。
「『エンゼルキッス』・・・これ可愛いね。
カカオリキュールとクリームの二層のカクテルの上に、ピックに挿したチェリーが乗ってる」
女の人はこういうのが好きなのかな、と言うと、反応してシューはにやりと笑った。
ソウイウコトヲ言ッテルカラぱふハ駄目ナンダヨナ、と言いたげなその笑いはなかなか止まらない。
いわく、女ニ飲マセルナラ、ソンナノジャナクテるしあんデモ飲マセロヨ。
「ルシアン?」
パフは素直に、本の後ろについた索引でそれを探す。
数々の名前の上を指が辿り、止まると再びページがめくられた。
「『ルシアン』・・・ウォッカにドライジン、カカオリキュールを1/3ずつ氷と一緒にシェーク。
使用するグラスはカクテルグラス。甘い香りと口当たりだが度数はかなり高い。
『レディキラー』として有名。女性を酔わせてしまいたい人はこのカクテルを・・・って、シュー!!」
頬を僅かに赤くしてパフが横を見たときには、シューはその場から素早く逃げ去っていた。
顔いっぱいに、チェシャ猫よりも意地の悪いにやにや笑いをはみ出させて。

 

 


 

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