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万聖節の前の夕


  


万聖節の前の晩。
の、少し前のこと。


昼頃から秋霧のたなびく島に漂い始めたいい香りは、夕方になって、その濃度をより増していた。
丸々とふとった緑のかぼちゃがナイフを入れられ、内に秘めていた煌びやかなオレンジ色を次から次へと見せ付ける様は、まるで閉じていた外套のボタンを開けて、中に着飾っている美しいドレスを見せていく貴婦人のようだ。
大きめのオレンジ色の欠片達は一斉にぐらぐら沸いた鍋の中へと飛び込んで、ほっくりと柔らかな湯気をまとった姿で戻ってくる。
緑の外套を脱ぎ捨てるのを手伝ったら、潰し混ぜるのは霧のようなホワイトチョコレートやコンデンスミルク。
味見をしながらボウルごとに異なる調味料を加え、魔法のスパイス、シナモンをたっぷりふりかける。
パイ生地を小さな正方形に切り分けて、クリームパフはふと考え込む。
そのまま2つでくるっと包んでしまうと、かぼちゃが見えなくて少し寂しい。
2枚をセットにして、気に入りのパン屋で時折見かけるデニッシュのように、片方の中央を丸く抜く。
抜いていない片割れの上に重ねてオーブンヘ。
後に残った丸いものをどうしようか迷って、結局普通に重ねて包むことにした。
それでもそのままでは寂しいから、チョコレートでジャック・オ・ランタンの顔を描く。
1つ1つ顔は違う。不恰好で愛嬌がある。HAPPY HALLOWEEN、と書いたものも混ざっている。
少し余った生地で、円の両端にキャンディの包みのようにデコレーションをしたら可愛くなった。
刷毛で卵黄を塗れば、それらは満月の光を浴びたようにてらてらと輝く。
温めたオーブンに入れてから焼きあがるまでは、待ち遠しくて仕方が無い。
次のかぼちゃを刻む間も、オーブンの中身が気になりっぱなしだ。
待ち侘びた音がキッチンに響く。
焦げ目の度合を確認したら、すぐに出さずにもう少し我慢して、分厚いミトンをはめてそうっと外へ。
くぼみにマッシュしたかぼちゃを乗せて仕上げをしたら、最後にパンプキンシードの王冠を被せる。
満足げに笑うと、クリームパフは1つ1つを大きなラップにつつんで、きらきらの短いモールで止めていく。
普通の味は緑のモール。ハチミツ味のは金色のモール。ホワイトチョコを入れたのは銀色のモール。
スパイスがぴりっと効いたやつは黒のモールで、洋酒をたっぷり練りこんだのは紫色のモール。
だって全部袋に入れるより気軽だ。
身なりを整えた可愛らしいミニ・パンプキン・パイたちは、できあがるたびに大きなバスケットに入れられ島の庭へと運ばれて、いつもの木陰に安置される。
そうして散歩中のお客が通りすがる度に、ジャッキーシューから手渡されるのだ。
実際のところ、ムシクイに手はないし、客に押し付けて回っているわけでは勿論ない。
ただ、島に来た者にシューが『とりっく おあ とりーと!』の闇の呪文、摩訶不思議で最高に素敵な合言葉を問答無用で叫んでまわり、運の良い相手からお菓子を貰ったり、持ち合わせのない不運な相手ににんまり笑って飛び掛ったりした結果、今日が何の日で今何が起きているのか気付いた賢いお客さんに「トリック オア トリート!」の呪文を唱え返され、唱えられたからには悪戯されたら大変なので、自慢げに胸を張ってバスケットを指し示し、好きな味を選んで貰っているいるだけだ。
何で自慢げかって、今日のはとびっきり美味しいからだ。味見した。全部の味を、確か2個ずつ。
何人かは迷惑をこうむったとばかりのしかめ面で退散するが、それもまた笑いに代わる。
このイベントのお陰で、もう1つのバスケットは貰い物のお菓子でいっぱいだ。
キャンディーにチョコレート、クッキー、マドレーヌ、ゼリービーンズ、キャラメル、ヌガー、ビスケット、マシュマロ、金平糖やどら焼き、グミにパウンドケーキまで!
巧妙な友人からいち早く貰ったパンプキンプリンは、2人がまだ寝ているうちに島のどこかに隠されていて、朝からミニリヴリー総出で宝探し気分を味わった。
結局島の木の枝にまで昇ったら、紫色の葉っぱにひっかかっていた。実に美味しかった。
丸っこい体をカボチャそっくりにペイントしたジャッキーシューは、もうにやにや笑いが止まらない。
強奪だって?とんでもない。
彼らはこれをハロウィンの黒魔術と呼ぶ。


午後4時半になれば、キッチンの魔術師はエプロンを外し、ハロウィンの魔術師へと姿を変える。
時折被っているシルクハットに、ちょっと気取ったマントにステッキ。
かぼちゃの飾りを帽子に乗せて笑っている背の高いパフの姿は、おとぎ話の魔法使いそっくりだ。
仮面を手にしているのは、出かける先が友人の図書館だからだ。 午後5時から開かれる仮面舞踏会で、『みんなで男性版壁の花になる予定』なんだそうで、これだけ背が高いのが集まったら、そこだけ小さなひまわり花壇みたいになるんだろうと、密かにシューは思っている。
パンプキン・パイを焼く作業は終わりではなく、友人達の分がまだ残っている。
特別製だ。知っている限り相手の好みに合わせているし、何せ、ホールでまるごと焼くつもりなのだ。
帰宅してから焼き立てを届ける予定のパイは全て準備が整っていて、今は冷蔵庫の中で眠っている。
1つだけ、オーブンの中から甲高い呼び声を上げて焼きあがったのは、真ん中から半分が甘いお菓子用、半分が甘くない食事用のハーフ&ハーフ。
甘いのが苦手な図書館の主と、甘いのが大好きな図書館の仕切り屋さんの為に。


出かけていくものと留まるもの、2人は視線を交わして笑顔を溢れさせる。
楽しいことはまだまだ始まったばかりといったって過言じゃない。
だって、ハロウィンの夜はこれから幕を開けるんだから!

 

 


 

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