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09.03.14


  


(※バレンタインに逆チョコを、お世話になっているご夫婦にお届けしたところ、ホワイトデー(の少し前)に夕食に招いて頂きました)
(その1日の動きを、3人でリアルタイムにSNSで書いていった時のものに、加筆修正したものです)

***

08:03
ベーコンエッグとグリーンサラダ、紅茶にクロワッサンと白パンの食事が終わり、使われた食器も全部綺麗に洗い終わった。
振り返ると、シューが台拭きで、机の上を綺麗に拭いてくれている。
片付け嫌いの彼が、自主的に家事を手伝ってくれることはそう多くない。
朝起きてからずっと、落ち着かずにミスを連発していた僕を、見るに見かねたのかもしれない。
例えば最近上手につくれるようになっていたはずのベーコンエッグを、少し焦がしてしまった。2度目のシューの分は焦がさなかったけれど。
プレートにクロワッサンと白パンを1個ずつ配るつもりが、1人につき1種類のパンを2つずつ、になってしまっていた。その上それを、シューに言われるまで気付かなかった。
小さなジャムの瓶に大きなフォークを添えて出したのは、ちょっとまずかったみたいで、流石に呆れられてしまった。
朝食を食べて、紅茶を飲んだら頭もすっきりしてきたから、お皿を割るような失敗はしなかったけれど、どうやらシューに心配されてしまっていたみたいだ。
シューは片付けは嫌いだけど、世話を焼くのは好きみたいだから。
片づけが終わった時のお茶のための水を、やかんに入れて、火にかける。
シューが台拭きを持ってくる。お礼を言って、流しですすぐ。
その間にシューが、ポットとカップを持ってくる。
ウェッジウッドのインディア。普段は使わないリータイプ、来客時用のとっておきだ。
僕も答えて、とっておきのダージリンを棚から出す。
振り返るとテーブルの上には、これから紅茶を飲みながら読むつもりだった新聞までもが置いてあった。
完璧な演出だよ、と言ったら、シューはカナリヤを食べたネコみたいに満足そうな目をして、お得意のにやり笑いを浮かべてみせた。
さあ、お湯が沸いた。
白に赤い水色を注いだら、素敵な一日の始まりに、乾杯!
(紅茶だけどね!)


***

9:43
バターキャンディを舐めながら、窓から空を見上げる。
昨夜の雨の名残を残して曇っているけれど、雲が切れて、青い空がわずかにのぞいている。
朝起きた時は、まだ空は一面曇っていて、雨が少しだけぱらついていた。
曇りから晴れへと移り変わる途中の、こういう空も好きだな、と思う。
天気予報は雨のち晴れ。
このまま雲が流れたら、きっと清々しい天気になるんだろうな。
「シュー、今日は洗濯日和になりそうだよ。洗濯物があったら、全部まとめて持ってきてくれるかな?」


***

11:15
さて、そろそろ図書館に出かけることにしよう。
図書館に出かけるのに陽気は関係ない。
不思議な鍵を使えば、玄関のドアからではなくても、部屋のドアからでも、ホテルに滞在する時に持っていく大きなトランクからでも、すぐに図書館にいくことができる。
だけど僕は、図書館に行くには一度外に出るようにしている。
出かけたという実感が欲しいのかもしれない。
それとも、今日の霧に挨拶をしておきたいだけなのかも。
名残惜しくもう一度めくっていた本を、1冊1冊積み上げる。
あるマウンテンピグミーの冒険家のノン・フィクション。
ものさびしい幽霊と、ひとりでいるのが好きな、小さな女の子の物語。
初春の、ちょうどこの時期に顔を出す植物に関するポケット図鑑。
挑戦してみたい料理の本は、どれもそう難しくなくて美味しそうだったのに、結局少し作っただけだったから、また後日借りなおそうと思う。
・・・そうだ、実際に作って美味しかったレシピは、ノートにメモしておこうかな。


***

11:27
荷物を纏めて、本を抱える。
図書館の暖かさを見越して、コートの代わりにジャケットを着てから庭へ出る。
振り返って、鍵穴に鍵。
閉めるんじゃなくて、開ける方向へくるりと回せば、回ってしまうのが不思議なところだ。
そうして扉を開ければそこは図書館。
中の暖かな空気が逃げないうちに、中に入って扉を閉める。
歩き出すとカウンターの方から、チリンとベルの音がした。


***

14:06
図書館から帰ってきて、シューのために用意していたミートパイを焼く。
今夜は僕が夕食を食べに出かけてしまうから、代わりに、昼食は豪華なメニューにする約束だった。
今日の夜は魚料理だと聞いているから、お昼は肉料理。
もう既に昼食には遅めの時間になっている。
これで夕食が食べられなくなっては困るから、ミートパイは自分用の小さなものと、シュー用の大きなものと2つ焼いた。
さくりとした歯触りに笑みが浮かぶ。
さて、あと4時間。
今の地に足がつかないような気分を鎮めてくれるのは、逆により楽しみにしてくれるのは、どの本かな?
(そしてどちらを選ぶか、それが問題だ!)


***

16:30
読書を終え、懐中時計の蓋を開ける。
知らぬ間に、二時間が経過していたみたいだ。
晴れていた空は夕方が近づくにつれ曇り、少し風が吹き始めている。
体が冷える前に家に入るよう、走り回っていたシューを促す。
一緒に戻って扉を閉めたら、風邪を引かないようにと、温かい紅茶を淹れた。
今回の紅茶はショウガの入ったブレンドティー。
なんとなく食器棚から選んだ透明なポットの中で、茶葉がジャンピングを繰り返すのを眺めていると、今読んだばかりの本の世界から、自分がゆっくりとこちらの世界に戻ってくるのを感じた。
そうか、あと一時間半なんだ。
懐中時計をもう一度開けて、紅茶の入り具合を確認するついでに、大事なことを思い出して嬉しくなった。
お盆にカップを並べて注ぎ、お皿に今日のとっておきを盛り付ける。
シューの為のお茶のお供はマンダリンシュークリーム。
その上からソースをかけて、テーブルに載せると、大きなシュークリームににシューが目を輝かせた。
一口食べて、ウマイ!って笑ってる。
そう喜んでくれると、買ってきたかいがあったなぁ。
差し出してくれたスプーンを受け取って、僕も一口。
うん、爽やかな甘みが口いっぱいに広がって、美味しい!


***

17:29
ああ、もう待ちきれない!
今から新しく借りてきた本で読書を始めたら、没頭しすぎて約束の時間を過ぎてしまう危険がある。
かといって家の雑事は午前中に終わらせてしまったし、お茶は1時間前に飲んだばかりだ。
静かに椅子に座っていても、読み終わった本をまた読み返そうとしてもそわそわと落ち着かなくて、早くも出かける準備をし始める。
手土産はいらないと言われているけれど、美味しくて買い溜めしすぎてしまった茶葉をお裾分けするくらいなら、いいよね?
コートまで着こんで、また着席。
シューに笑われながら、あと30分。


***

17:57
とうとう5分前。
忘れ物はないだろうか?
この格好で失礼はないだろうか?
少し心配になって鏡の前に立つ。
髪をなでつけて、帽子をきゅっと被りなおす。
一回転するようにシューに言われてゆっくり回ると、シューが全身を眺め回して、にかっとOKを出してくれた。
玄関先で帽子をとって挨拶する。
「いってきます!」
被り直して、ドアノブに手をかけ、僕は一歩を踏み出した。


***

18:02
ドアの前で深呼吸。銀の蓋を開けて、時刻確認。
チャイムを鳴らすと、すぐに馴染みの顔が迎えてくれた。
案内される途中、ミモザの花が飾られているのを見かけた。
そういえば、一昨日はフェスタ・デラ・ドンナだった。
散歩に出かけたら、あちこちの花屋で黄色いミモザが売られていたっけ。
旦那さんからの贈り物だろうか?
どんな顔で渡したのか、奥さんはどうしたのか、ちょっと想像して口元が緩む。
家は住まう人を映し出す。
いい家だなと、思った。


***

18:33
温かいもてなしに嬉しさを隠せないまま、コーヒーをお願いする。
自分では滅多に淹れないコーヒーは、人の淹れた味がした。
つまり、とても美味しかった。
自分ではコーヒーを美味しく淹れられないから、余計に幸せな気分になる。
おつまみも進みそうになっているのに気づいて、慌てて伸ばしていた手を止めた。
食べ過ぎないよう気を付けないと、この先があるんだから。
部屋の奥から、いい香りがし始めた。
敏腕司書さんのみせる表情は、昼前に見た顔と少し違う。
旦那さんと一緒だと、いつもこんな顔をしているのかな。
なんだか微笑ましい。
幸せを絵に描いたような夫婦だと思いながら、カップを置いた。


***

18:37
食事の間の飲み物には、紅茶をお願いする。
いつもと違う茶葉、違う淹れ方。濃さも、味も違う。こういうのって、何かいい。
予想通りどころか、予想以上に食事はどれも美味しかった。
味は勿論、盛り付けもとても綺麗だ。
テーブルの上で彩を添える花だって、微笑みかけてくれているみたいに瑞々しい。
食事は目でも味わうものだから、仮に目に味覚があったら、今頃は美味い美味いって舌鼓を打っているに違いない。
勿論僕も舌鼓を打っている。うーん、美味しい!
家庭を感じる優しい味のスープを飲み終えて、運ばれてきたのは美しく盛り付けられた、舌平目のムニエル!
手作りでこんなのができるなんて、凄い!
感動しながらナイフとフォークを操る。一口食べて再び感動。
えっ、これアフ君が作ったの?
クラーベさんと一緒に素直に感動を伝えたら、たくさんのことを話してくれた。
アフ君がワインを自分で注いでいるのに気付いて、ワインボトルを取り上げる。
まあまあ、僕にもそういうことさせてよ。クラーベさんも、もう少しどうぞ。
アフ君とクラーベさんが楽しそうに飲むから、僕まで酔ったみたいに饒舌になる。
壁掛けカレンダーと卓上カレンダーと手帳にそれぞれ×印をつけていた話をしたら、2人もカレンダーに印をつけていたとわかって嬉しくなる。
先生のことをアフさんがミスターって呼ぶ理由をどうしても聞き出せなくて、いつの日かどうにかして聞き出そうと、密かに決めた。
「僕は先生、かな。前はヘッケルさんだったはずだけど、いつから先生って呼ぶようになったんだろう?図書館の人たちが先生って呼ぶから、司書さんと話しているうちに影響されたのかな」
お喋りも食事も進む、6時半。


***

18:56
図書館にカフェができたら働かせて頂く事になっているんです、お二人とも是非遊びに来て下さい、好みの淹れ方があったら覚えておくから話してくださいね、サーモマグを持って来て頂ければ熱々のままテイクアウトもできますよ、なんて話をしているうちに、料理がどんどん消えていく。
司書のクラーベさんとはほとんど同じ職場になるんですねって笑ったら、失言だったらしくて、ワインを飲む旦那さんの目がちょっと剣呑な光をたたえた。
しまった、と思う間もなく、すぐにクラーベさんが笑いとばして、アフ君の表情も元に戻る。
うーん、流石はアフ君のお嫁さん!


***

19:13
ボサノバのリズムと一緒に、軽快な気分で食事は進む。
クラーベさんとのお喋りが盛り上がっているところに、話題の張本人が現れて、見事なドルチェを差し出してくれた。
添えられたソースが綺麗な線を描いていて、まるで誰かの家で作られたものじゃなくて、良いところのレストランの高級なドルチェみたいだ。
お客のドルチェを綺麗に盛り付けるのと、奥さんを笑顔にすることが得意なアフ君なんて、初めて会った時にはとても想像できなかった。
もてなし上手な夫婦に乾杯!
ワインじゃないけどね、なんて笑ったら、アフ君がワインとグラスを持ってきてくれた。
じゃあ一杯だけ、頂こうかな。
Seo君が用意してくれたって聞いたら、ますます飲まないわけにはいかない。
こんな素敵な機会を逃す手はないからね。


***

19:41
一杯だけと言ったはずなのに、何故だかしっかり二杯目を頂いてしまっている。
僕もしっかり酔っ払ってしまったらしくて、さっきからくすくす笑いが止まらない。
アフ君の話に陽気なジョークとのろけ話が混ざり始めて、冴えたツッコミを披露するクラーベさんの頬が赤いのは、ワインのせいだか照れているのかわからない。
舌先でワインと一緒に言葉を捏ねて転がして、3人で大いに笑い転げた。
まだ終わってもいないのに次の話まで飛び出して、楽しい話は終わりを知らずに回り続ける。
次の夕食の招待の話も出てきて、2人の口からは素晴らしいアイディアがいくつもいくつも飛び出してくる。
今度は僕の家にも来てほしいな。そうしたらシューも喜ぶ。まだまだ練習中で、こんなに美味しい料理は作れないから、夕食ではなくて、3時のお茶会でもいいかもしれない。
そうだな、季節は夏がいい。僕の島は夏でも他の島より涼しいから。
家の中より、あの居心地のいい庭の木陰にテーブルを出そう。
その辺りはちょうど島の中心で、島を取り巻く霧も薄いから、湿気も気にならないはずだ。
カフェでは使っていない茶葉を使おう。その頃にはきっと僕もコーヒーを美味しく入れられるようになっているから(そうじゃなくっちゃ困るからね!)、何のリクエストにも答えてみせるよ。


***

20:07
奥さんが、ちょっと席を立った隙に。
旦那さんが新しいワインを取りに行った隙に。
酔った勢いで尋ねてみる。
「聞いていいかな、あの人のどこに惚れて、結婚しようと思ったのか?」
その答えは、どちらもとても幸せなものだったから。
帰ってきたもう一人に何を話していたのか問われても、僕は笑ってとぼけて、なんにも知らないふりをした。


***

20:20
ああ、本当に楽しい1日だった!
綺麗な奥さんと格好良い旦那さん、さりげなく花の飾られた食卓、見栄えも味も美味しい食事、トランポリンのように弾む会話、これで満足しないわけがない。
毎日カレンダーを眺め、招待状を読み返して楽しみにして。
そんな待つ楽しさと、実際この日を迎えた楽しさ。
相乗効果で、最早にこにこ笑顔が止まらない。
お喋りは盛り上がったまま、ちっとも落ちてくる気配がない。
だけど、気付いたら、時刻は8時を回っていた。
今来たばかりの気がするのになあ!
楽しい時の体感時間ってものは、時に驚くほどに信用できない。
名残惜しいけれど、シューも心配だし、そろそろ失礼することにする。
もう一度美味しい食事と素晴らしい時間の御礼を言ったら、シューにお土産まで頂いてしまった。
青いリボンを結ばれた白いバスケットには焼き菓子が山と積まれていて、これを見たシューの反応が思い浮かぶ。
お礼を言おうと2人の顔を見たら、優しい笑顔がそこにあって、一瞬だけ、息を止めた。
ありがとう、ありがとう。
2人も楽しんでくれたみたいだ。嬉しいな。最高の一日だ。
バレンタインの逆チョコレートの風習が、このまま根付いてくれたらいいのにな。
だってそうしたら、来年僕の家に2人を招待して、チョコレートのお茶会を開けるのに!

 

 

お子様お借りしました! (きょるさん宅アフさん&Sonoraさん宅クラーベさん)

 


 

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