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09.04.01


  


(午前中には優しい嘘を)

(午後にはその釈明を!)


* 1 *

目覚まし時計が、リン、と言って止まった。
クリームパフはスイッチを押した手でサイドテーブルの眼鏡をを引き寄せて、ベッドからするりと抜け出る。
洗面所に向かう前に、3月のままだった卓上カレンダーをめくった。
4月、1日。
12時になるまで、あと6時間。
顔を洗って身支度を整え、パフは隣の部屋へと忍び込む。
くせっけを更にくしゃくしゃにして、あまり良くない寝相でシューが寝ている。
まずは、枕元の時計の針を、くるくると回す。
それからその小さな肩に両手を添えて、かくかくと揺さぶる。
何度か繰り返すと、薄っすらとシューが目を開いた。文句を言われる前に、笑顔で告げる。
「おはよう、シュー!起きて、もう9時半近くだよ!」
エクスクラメーション・マークを飛ばしながら上半身を起こしたシューは、時計を見ると大慌てでベッドを降りた。
「ナ、ナンデ起コシテクレナカッタンダヨ!!」
パフの脇を抜けて全速力で居間へと走っていくと、シューはTVのリモコンを探す。
テーブルの上にもリモコン立てにもないものだから、探すのを諦め、TVのボタンを直接操作してチャンネルを変える。
お目当ての番組がやっていないのを確認すると、戸口にいるパフをキッと睨みつけた。
「ホラ!!終ワッチャッテルジャナイカ!!見タカッタノニ!!目覚マシカケルノ忘レタノハ俺ダケド、イッツモ7時ニハ起コスクセニ、ナンデ今日ニ限ッテ起スノ遅インダ!ヒドイゾ!アンマリダ!!」
「ええっと・・・ちょっと落ち着いてくれるかな」
まさかこんな騒ぎになるとは思わなかった。パフは事態を鎮めるべく、人差し指をすっと伸ばす。
指し示された壁掛け時計を見て、大騒ぎしていたシューが沈黙する。
「6時半になりました!リヴリー・ニュースの時間です」
背後のTVから、ニュースキャスターの元気な声がする。
パフは居間の壁にゆっくりと歩み寄ると、壁かけカレンダーを1枚めくる。
今日から、4月。
ぽかりと口を開けたシューに、クリームパフは笑いかけた。
「今日は早起きできたね、シュー!そうだ、せっかく早起きしたんだし、朝食を作るのを一緒に手伝ってくれるかな?」
灯台下暗しもいいところで、リモコンはTVの横に落ちていた。
「まずは顔を洗って、着替えておいで」
実に悔しそうな顔で頷いたシューの表情は、すぐに何かを企む、悪戯じみたにやにや笑いに変化する。
さあ、急がないと。あと5時間半しかないんだから!


* 2 *
スープに塩を振ろうとして、違和感に気付いた。
指先にとって舐めてみれば、白い結晶はほんのりと甘い。
「オット、良ク気付イタナ!」
にんまり笑ったシューが、塩と砂糖のラベルを入れ替える。
トースターはコンセントが抜けていた。
何気ない顔でパフが台に乗せてスプーンを添えて出した卵は、半熟どころか完熟だった。
「GLLのパスが切れてしまったから、新発売のものを見に行けないんだ。後で買い足しておかないと」
「アア、GLLデモ『きす割』ガデキタッテにゅーすデ言ッテタゾ」
「そうそう!昨夜もGLL入場門の前に並んで、カップルや家族がキスをしていたよ。微笑ましかったな」
「残念ダッタナ、ぱふニハ相手ガイナクテ!」
「ふふ、まあね。だから僕はハグ割を利用するつもりだよ」
「ソンナノモアルノカ!デ、新島ト新あいてむハ何ダッテ?」
「お刺身の島。アイテムはわさびとツマ」
「・・・・・・生臭ソウダナ」
「冷蔵庫で保存して、本日中に使い切ってくださいって書いてあったよ」
「一日シカモタナイノカヨ!」
「0ddだから、また買えば大丈夫だよ」
「ソウイエバ、次週ノやみーあいてむ、『井戸』ダッテサ!真夜中ニ白イ服着タ黒髪ノ女ガ這イデテクルラシイゾ!」
「へえ、寂しがりやの人にはぴったりのアイテムだね!流石はヤミーSHOP、1人暮らしのリヴリーにも気を使っているんだね」
朝食を食べながらも応酬は続く。
何気なく手に取ったチラシに書かれていた、管理リヴリーの人事異動のお知らせに、2人は顔を見合わせて、2人揃ってふきだした。


* 3 *

食後の散歩に出かけたクリームパフは、昨夜書いた言葉が並ぶ白い紙を、友人達の島の掲示板に貼って回った。
『月が地球に衝突するんだってさ!だからその前に、皆でかじって食べてしまわないと!大丈夫、あれは巨大なモンシロチョウの卵だから』
『パンケーキの収穫は順調そうです。今年は暖冬だったから、パンケーキの木が良く成長したようですね』
『この木の先っぽ、少し鋭くないかな?もう少し季節が過ぎたら、月が引っかかると思うから、気をつけたほうがいいよ』
『今年は散るのを待ち望まれるのが嫌だからって、桜がストライキを起こしたんだって?結局咲いてくれて良かったね!』
『ソーダ池の炭酸がいつまでも抜けないのは、夜中に補充してるかららしいよ。今度見てみて・・・泡が中に入ってくから!』
『風音岩の穴にはね、昔のリヴリーの化石が入ってたんだ。でも実は冬眠してただけで、逃げ出しちゃったんだ!迷子を見つけたら連れて帰ってあげてね』
様々な四月嘘の中にはシューが書いたものも混ざっていて、貼り付けるたびにクリームパフの瞳が楽しげに輝く。
最後に自分の島にもちょっと仕掛けをして、午前の散歩は終わりになった。


* 4 *

鍵穴に、図書館の鍵を入れて、回す。そこまではいつも通り。
けれどなぜか、鍵穴にささったまま、鍵が抜けない。
ちょいちょいと肩を叩くような仕草で触れると、鍵は大人しく抜けてくれた。
待ち受けているものを想像して、クリームパフはわくわくしながら扉を開けた。
返却する本をカウンターの中の司書に手渡そうとして、どう声をかけるべきか、一瞬パフは戸惑った。
鳶色の髪の後姿と交代したばかりの、勤労意欲に溢れている、大真面目な仕事人の顔をした青いシャツの青年の頭にあるのは、どこからどう見ても、愛らしく伸びたうさぎの耳だ。
本を受け取った拍子にひょこりと揺れて、可愛らしいことこの上ない。
じろじろと見るのも失礼な気がするけれど、どうしても視線が耳にいってしまうのは、他のお客さんも同じようだ。
クレアが確認した本を揃えようと縦にすると、ブックカバーの間から、はらはらと紙ふぶきが舞い落ちて、カウンターに散らばった。
視線を交わしてにやりとし合う。なかなかやるな。そっちこそ。


* 5 *

本棚から本を引っ張り出すと、異様に背表紙が長かった。
あまりに長すぎて引き出せない。
数歩下がって引いてみると、まだまだまだまだ長かった。
本棚の厚みよりも長かった。
「・・・え、ええ?」
そんなことがあるものなのか。疑問が好奇心に変わる前に、派手な王冠を被った白衣の司書が、どこからともなく飛んでくる。
「エイプリルフール!」
してやったり、と腕組み胸はり宣言されて、何が起こったのか理解したクリームパフが笑い出す。
全くこの司書と来たら!エイプリル・フールの王様に誰より一番ふさわしい。
大きすぎてずれてくる王冠をずりあげて、プロップはニセモノの表紙を取り外してくれた。
無地の表紙が重ねられて、スライド式になっていたらしい。
凝っているなあ、と感心するパフに、プロップはうひひ、と笑って耳打ちする。
「これは宵の口ッス。まだまだいっぱい仕掛けてあるッスよ!」
「・・・『序の口』かな?」
「アレ?間違えたッスか?」
首をかしげた拍子にまた王冠がずれた。
戻している間に、クリームパフはポケットから見慣れた紙を取り出して渡す。
「プロップさん、僕のところに督促状が迷い込んでいましたよ」
「あ、どうも・・・って、これ、宛先『プロップ』じゃないッスか!」
借りた覚えのない本にわたわたしているプロップが、宛先のところに貼られたシールに気付くのは、あと3秒くらい後のこと。


* 6 *

結局、本を選ぶ間に何回トラップに引っかかったのかわからない。
偽本棚にはひっかからなかったけれど、引っ張っても出てこない本には5回くらいやられてしまった。
角を曲がった途端にニトロの籠があって、「お菓子をおくれよ!」と言われた時には、エイプリル・フールのイベントなのか、ハロウィンなのか、いつものことなのか、わからなかったけれど笑ってしまった。
エイプリル・フールコーナーの前の非公認早口言葉選手権で早々に敗退し、言い切った早口名人にそこにいた全員で拍手を送って、「もうちょっと静かに!」と注意されて。
面白そうな本をたくさん手にとって、クリームパフはとても満足した気分でいた。
カウンターに向かおうとして、その足を止める。
カウンターの中にいたのは白衣の司書だったはずなのに、そこにはシャーロック・ホームズが座っている。
どこかでブー!と間抜けな音がしたと思ったら、王冠を被ったシャーロック・ホームズが慌てた様子で駆けていく。
階段を降りてくる鼻眼鏡のシャーロック・ホームズ、大きな蝶ネクタイのシャーロック・ホームズ、シャーロック・ホームズ!
極めつけに、旦那さんと並んだカイゼル髭のシャーロック・ホームズが悠然と隣を通り過ぎて、パフは我が目を疑った。


* 7 *

マリゴにぺこりとお辞儀をして、研究室に入る。
桃色頭の先生は、一心不乱に書類と格闘している。
「締め切り直前まで、お仕事溜め込んじゃったんです」
そう言うマリゴの声は、怒っているような、笑っているような声をしている。
頷いて、唇に指を当てると、持ってきたトランクの留め金を外し、クリームパフは行動を開始した。
やがて、ヘッケルが書類から顔を上げた。
思うように進まない仕事に困りながらくしゃりと髪を混ぜ、向こうの棚にある資料を取りに立ち上がる。
そこで、きょとんと目を瞬いた。
背中に羽織っていた白衣が、床に落ちたのだ。
よっこいしょとしゃがみ込んで拾い上げて埃をはたく、その腕は白い。
はて、とよくよく見れば、自分は白衣を着たままだ。
不思議に思いながら立ち上がり、とりあえず手の中の白衣をかけておこうと椅子の背もたれを見ると、そこにも白衣がかかっている。
振り向けば、空いたコートかけには全部白衣がかかっている。
更に別の方向を見ると、カーテンレールにも白衣がびっしりかかっている。
資料の山の隣には、白衣の山ができている。
帽子かけ、机の上、本棚の中、ドアノブ、開け放した引き出しの上、窓の外の物干し竿。
「・・・こんなに白衣を持っていたかな」
当惑を静めるべく飲んだコーヒーは、濃い紅茶の味がした。
ロッカーの中の替えの白衣は、なぜか作務衣になっていた。


* 8 *

図書館から借りてきたエイプリルフール特集の本は、なかなかにわけのわからないもの揃いだ。
一緒に読み始めたシューは騙し絵の本をさかさにしたり、自分の首を横にしたり、立ち上がってみたりと忙しい。
クリームパフのめくる、古いなぞなぞの本は凝ったものばかりで、まるで韻を踏んだ詩のようで美しい。
ただし、答えもスマートだ、とは、あんまり言えない。
「シュー、白くて、赤い帽子を被っていて、だんだん縮んでいくものってなんだと思う?」
「モウ歳デ背ガ低クナッテキタ、白髭赤服さんたくろーす!」
「・・・その答えは予想外だったなあ」
答えはロウソクでした、とパフは言う。シューがにーっと笑ってみせる。
「じゃあ、一年の始めに立っていて、わけがわからなくて、ぐるぐるしていて、めちゃくちゃなのに、とびっきり面白いものってなんだと思う?」
「エ?元旦?」
「外れ」
「立ッテルンダロ?門松!」
「残念」
「鏡餅!」
「違うよ」
ジャッキーシューは黒い目を細めて呻り始める。イチネン、イチネン、と呟いて、部屋中をうろうろしていた眼差しが、壁のカレンダーを見て、ストップした。
「ウーン・・・ワカッタ!一年ッテ元旦ジャナクテ年度ノコトダロ!」
パフは頷く。
「えいぷりる・ふーる!」
「その通り!」
時計の針が重なり合う。
楽しかったエイプリル・フールの午前が終わる。
柱時計がリンゴーンと鳴って、重なった隙に長針と短針が入れ替わって、ニワトリがニャーオと鳴きながら勢い良く鳩時計から飛び出してくるような、正午!

 

 

お子様お借りしました! (Sonoraさん宅、0401の悪戯を開催していらっしゃった図書館の皆様)

 


 

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