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お茶会カジノ


  


長く空を支配していた灰色の雲は去り、不意に降り出して人々を驚かせては、時折世界を湿らせていた雨が止んだ。
ここ数日の陰気な気配はなりを潜め、晴れた空から太陽が覗く。
冷たかった風は暖かなそよ風へと変わり、うららかな春の陽気が戻ってくる。
『また天気が良くなったら、遊びに行くよ』
前日までとは様相を一変させた空を見上げていたSeoは、数日前にカジノで友人と交わした約束を思い出し、僅かにその表情を緩めた。
常日頃、まるで習慣のように身につけている空虚な笑顔から、小さくとも本当の笑顔へ。
両者の違いを指摘することは難しい。
ほんの少し口元の綻び方が違う、眉の上げ方が違う、目の細め方が異なる。
そんな些細なこと以上にその変化は色鮮やかで、同時に目の錯覚かと思う程に短かった。
「どうした、Seo。聞いてるのか?」
尋ねられて視線を戻す。
些細な会話の途中だったことを思い出し、微笑む。
そう、そんな事はどうでも良い事だ。
「うん、ちょっと用事を思い出してね。・・・悪いけど、今すぐ行かなくちゃ」
これからの大切な予定に比べたら。


その島がまとう霧は、普段よりも随分と濃い色をしていた。
土が水分をたっぷりと吸収した上に、柔らかな太陽光が降り注ぎ、今日は稀に見る程に大量の霧を発生させている。
真っ白な世界を見当だけで歩いていけば、すぐに中心部へ辿り着いた。
そこは台風の目のように霧が薄い。
上方から降り注ぐ光を薄い霧が透過して、暖かくて心地が良い。
微かな風に乗って、小さな花びらが視界を右から左へ横切るように舞っている。
木陰に設置したテーブルにテーブルクロスをかけていた眼鏡の青年が、Seoの姿を認めて振り返った。
「パフ君、こんにちはー!」
「わぁ、いらっしゃい、Seo君!」
駆け寄るように近づいて、ぎゅーっとハグする。
仕事上の知り合いには驚かれそうな光景だが、相手も慣れたもので、目の前に来た焦香色の髪に指先を絡めるように触れ、そこについていた花びらを風に返すと、Seoを笑顔でぎゅっと抱きしめ返した。
「オ、来テタノカ、Seo!」
寄ってきたムシクイにも、屈みこんでハグを仕掛ける。
口では文句を言っていたが、どうやら満更でもないようで、抵抗はされなかった。
「ずっと曇っていた空が晴れたから、今日辺り、来てくれるんじゃないかと思っていたんだ」
その間にやかんに火をかけて、テーブルを整え終えて、嬉しそうにクリームパフは言う。
「シューなんて、毎朝空を睨んでたんだよ。マタ曇リカ!って」
「ぱ、ぱふダッテ一緒ニ眺メテ残念ガッテタクセニ!」
腕の中のムシクイがアーダコーダ言いながら暴れ始めて、くすくす笑いながらSeoはムシクイを解放した。
椅子を勧められて、腰かける。
小さな花をつけた白梅の枝が控えめに、中央の一輪挿しに飾られていた。
「今お茶を淹れるよ。特に飲みたい種類はあるかな?」
「うーん、お任せしてもいい?」
「勿論!」
頷いて、眼鏡をかけたジュラファントは奥へ姿を消す。
Seoの隣の椅子に、ムシクイは飛び乗るように腰かける。
残ったのは主のいない椅子が1脚で、最初から自分1人が訪れることを想定して、この場が作られていたことにようやく気付く。
「アノナ、昨日ノ夕焼ケハ、凄カッタンダ!」
それを知ったかのようなタイミングで、シューはSeoに話し始めた。
「ナンテユーカ、空ガ燃エテルミタイダッタカラ、キット翌日ハイイ天気ニナルッテ、ぱふト2人デ決メツケテタンダ!」
それで、明日は楽しみだなって言い合ううちに、本当に楽しみで仕方なくなってしまって、夜のうちにお茶菓子を作ってみたり、朝になって本当に良い天気だとわかってからは、まだ午前のうちから紅茶と一緒に摘まめそうなものを用意したり、テーブルクロスを綺麗なものに換えたりしていたのだとシューは言う。
「今日ハオ客ガ来ルッテコトニシテタンダ、無理矢理!」
「そうそう」
上から声が降ってきた。
目の前に、薄い作りのカップとソーサーが置かれる。
中の赤は若干黄色味を帯びていて、湯気と共に豊かな香りが立ち上っている。
「だから、僕もシューも、本当にSeo君が来てくれて、嬉しかったんだ」
続いて置かれる、シュガーポットとジャムとブランデー。
白い器に入ったミルクが冷たいのは、島の主である彼の、最近の好みだ。
ふと何かを思いついたらしいシューが、パフを見上げてにやりと笑う。
「ソウダ、ぱふ、アレ持ッテコイヨ!」
「あれを?まだ早くないかな」
「イヤ、楽シイ事ハ、早イ方ガイイニ決マッテル!」
「でも、シュー。まだお茶も済んでいないよ?」
「飲ミナガラヤッタッテイイダロ、別ニ!」
「ふふ、わかったよ。降参」
両手を軽く挙げて、再びパフは奥へと消える。
何だろうと思って目で追っていると、彼はすぐに大きな菓子箱を3箱持って戻ってきた。
テーブルに置いて、それぞれの蓋を開ける。
中に詰まっていたのはクッキーだった。
一体何枚あるのやら、数え切れない程の丸い形のクッキーには、プレーンにココア、ストロベリーや抹茶とおぼしき数色のパターンがあって、それぞれが色別に収められていた。
その中央にアイシングで数字とアルファベットが書かれているのを見て、それが何のつもりなのかに思い至ったSeoが思わず吹きだす。
口元を拭い、苦笑している島主と、妙に得意げなムシクイに尋ねる。
「これ、もしかして・・・」
「ソウ!かじのちっぷ・くっきーダ!!」
全部を口にする前に、無意味に胸を張ってシューが答える。
やっぱり、と呟いてまじまじとクッキーを見る。
カジノで使っているものと、若干似ている気がしなくもない。
「シューが、どうしてもカジノに行ってみたい、せめてカジノ気分だけでも味わってみたいって言うものだから。Seo君と、チップを賭けてカードゲームをするくらいなら、できるかなって思って」
「あ、それでカジノで使ってるカードを持ってきて欲しい、って話だったんだ」
言ってくれればチップも本物を持ってきたのに、と言えば、それじゃ申し訳ないから、と返される。
「ゲームで賭けるものはこのクッキー。たくさん勝った人がたくさん食べられる仕組みで、お持ち帰りも勿論可能!」
「食イタクナイカラワザト負ケルナンテ言ワナイヨナ、Seo!」
「まさか!カジノに持ち帰るくらい貰って帰るよ」
たくさん貰ったらアフやほーこちゃん達にも分けてあげようかな、と口元を緩ませるSeoに、シューからいかさま禁止ナ!の声が飛ぶ。
「Seoハ平気ナ顔デいかさまシソウダカラナ、ナントナク」
「・・・酷いなあ、せめて根拠を持ってから言ってよ」
それぞれにお皿が配られ、その上にクッキーが載せられる。
クッキーを移動させるための、小さなトングも用意された。
続いてお皿をもう1つ。
その上には薄いサンドイッチが2切れ、大きく膨らんだマフィンが1つ。
「さすがにゲーム中にこれを摘まむわけにはいかないからね」
割れてしまっていたクッキーを摘み上げて、別のクッキーと取り替えながら、クリームパフはお茶目に笑ってみせる。
新しい紅茶がカップに注がれる。
慣れた手つきで、Seoがカードをシャッフルする。
カードが配られ、チップは高く積み上げすぎないこと!と注意が入ったら、霧と小春日和に見守られた、お茶会とゲームの始まりだ。
・・・久々に本気を出したら、シュー君に怒られるかな。
手札を扇状に広げて、その引きの良さに内心で口笛を吹く。
Seoはトングを手にし、他の2人の顔色を眺めながら、何枚賭けようか思案に耽った。
そよ風に花びらがまた運ばれて、白いテーブルクロスを華やかに、彩る。

 

 

お子様お借りしました! (きょるさん宅Seoさん)

 


 

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