々しいったらないよ、風邪も、君もね!


1 / 2 / 3 / 4

Text


  


けほけほ、と咳き込む。
その拍子にボロドウ帽が目にかかって、クランクレムは重い仕草で被っていた帽子の位置を直した。
ついでに、向こうの物陰でおどおどと、心配そうにしているティカーを睨む。
(何で君なんかに、心配されなきゃいけないんだよ、全く)
悪態の代わりに出てくるのは、痰の絡まない乾いた咳だ。
島では水パイプそっくりの形をした加湿器が、しゅんしゅんと湯気を上げている。
もう少し傍に寄って蒸気を吸い込むと、喉が少し湿って、いがらっぽさが少し和らいだ気がした。
(気休めかもしれないけれど)
(どうせならもう少し早く発売してくれれば良かったのに、と、また彼は心の中で悪態をついた)
つまるところは、風邪を引いた。
クランクレムの島にも、雪が積もってきた頃だ。風邪のウイルスにとっては、絶好の時期だったに違いない。
肩や頭の上を、愛らしくちょろちょろと動き回っていたシロムシクイのヴィスが、数日前に小さなネズミの鼻でくしゅん、と可愛らしいくしゃみをしていたから、もしかしたら風邪はヴィスからうつったのかもしれない。
それなら、怒るわけにはいかなかった。仕方のないことだ。ヴィスは可愛い。
症状はといえば、熱も鼻水もない代わりに喉の奥がすこし腫れていて、声が嗄れてしまっている。
喋るとちょっと痛むから、今日は一度も喋っていない。動きもひどく緩慢だ。
別にだるくはないのだが、こうも咳が出ると、色々なことが億劫になるのだ。
膝掛けに包まったまま、不機嫌な顔で黙り込んでいると、意を決したらしいティカーが傍にやってくる。
(臆病者の癖に、僕に怒られるのが怖いくせにさ!)
(それとも、声が出なければ怒られないとでも思っているのかな)
考えていると、ティカーはクランクレムの横を通り過ぎて、小さな白い紙袋を持って戻ってきた。
それをこちらに差し出して、小さな口をそうっと開く。
「・・・あ、あの、おくすり・・・」
(ああ、そういえば、お昼の後は飲んでいなかったっけ)
受け取って、カプセルを1つ、掌に出す。
口に入れようとすると、またいなくなっていたティカーが、コップに入った水を持ってきた。
不機嫌な今は、そのかいがいしさすら腹立たしい。
水を飲まずに頭の上から振りかけてやりたくなったが、そうするとカプセルが飲めない。
こくこくと薬ごと水を飲み干すのを見て(彼女に目はなかったから、超音波を使ったのだ)、ティカーはほっとしたようだった。 しかしクランクレムはしかめっ面だ。
ただの水だと思っていたものが、水は水でもソーダ水だったのだ。
炭酸がしゅわりと喉に心地良かった。
きっとティカーは、クランクレムの具合が良くなるように、考えに考えて薬を運んで、ソーダ水を選んで持ってきたのだろう。
それはわかっている。
わかっているからこそ、嬉しいよりも、その気配りが憎たらしい。
「・・・もう一杯、汲んできてよ」
コップを差し出してそう言うと、久々に彼の声を聞いたティカーは、びっくりしたように頷いてとって返した。
クランクレムはその後をついていく。
そうして、ソーダ水の池から水を汲もうとしゃがんだ小さなティカーの不安定な背中を、伸ばした両手でとんっと押しやったのだった。


(だってほら、風邪はうつすと治るって言うじゃないか!)

 

 

お子様お借りしました! (ジャノメさん宅クランクレムくん、ティカーちゃん、ヴィスさん)
この小話とお借りしたお子様やその飼い主様は、飼い主様が「これきっとほんとにあったことだよ!」と認定しない限り、一切関係ありません

 


 

『Livly Island』『リヴリーアイランド』は、ソネットエンタテインメント株式会社の商標です。
リヴリーアイランドに関わる著作権その他一切の知的財産権は、
ソネットエンタテインメント株式会社に属します。
このサイトは『リヴリーアイランド』およびソネットエンタテインメント株式会社とは
一切関係がありません。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送