んにちわ くじら


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ぽたり、と頭に大粒の水滴が当って、ハローはびっくりして目を瞬きました。
空を見上げると、どこまでも曇り空が広がっていましたが、それは雨が降る時のような、深くて暗い色をしていません。
気のせいかな、と思ったとき、もう一度ぽたり、と雫が落ちて、ハローの雨色の毛先を濡らしました。
ハローはもう一度、空を見上げました。
顎をぐいっと上げて、逆に頭のてっぺんは後ろに反らして。
あんまり顔を上方向に傾けたので、バランスを取れずにぐらぐらと倒れそうになりながら、ハローは空を見上げました。
そうして今度こそ、小さなくじらを見つけました。
それは雨のくじらでした。
薄灰色に波打つような雲の中で、その雨雲だけが深くて濃い色をしていて、小さなくじらの形をしていました。
そのくじらは大粒の涙をこぼしていて、それが冬の冷えた空気の中をくるくると虹色に光りながら落ちてきて、ハローの頭に降り注いでいるのでした。
「・・・どうして、泣いているの」
くじらがあんまり悲しそうだったので、ハローはくじらに尋ねました。
話しかけられるとは思っていなかったのでしょう、くじらは驚いたようにぴくりと跳ねました。
くじらの尾が打ち振られて、頭がハローのいる方向を向きます。
一寸の間押し黙って、涙ではなく、今度は言葉を落としました。
「悲しいからさ」
くじらは幼い、かわいらしい子供の声をしていました。
「世界中の人が悲しくて泣くだろう?そうして涙を落とすだろう?
するとその涙は細かな水の粒になって、空へ空へと昇って雲になる。
それでもまだこの世界では誰かが悲しんでいるから、空の雲の中で溢れた涙は、終わらない悲しみに凍えながら、こうして地上へ還っていくのさ」
その言葉はハローには少し難しかったのですが、ハローは静かに聴いていました。
甲高い声は続けます。
「ねえ、君、どうしてこの世界はこんなに美しいのだろうね?
ねえ、君、どうして僕はこんなにも黒っぽくて汚い色をしているんだろう?
全ての悲しみが空へとやってくる、そして人々は涙を拭いて笑っている。
僕はそれが嬉しくてたまらない。
それでいて、この身が引き裂かれて、死んでしまいそうなくらいに悲しいんだ。
ねえ、君、わかるかい?
悲しみは循環するのさ。
僕はただの循環のピースの一つで、永遠に終わらない悲しみの渦の中にいる。
現実はただそれだけで、僕はそれがこんなにも悲しいのさ」
ぽたり、と、また涙が落ちました。
「・・・君が泣くことはないだろうに」
くじらの姿をしていた雨雲は形を変えて、その腕を伸ばすようにして、ハローの涙を拭いました。
大きな目に透明な涙をたたえたハローは、何も言えずに、雨雲へと手を差し伸べました。
雨雲にハローの手が触れます。重なり合って、一つになります。
ハローに雨雲が巻きつくように。ハローが雨雲をまとうように。
ひとつになったふたりは泣き続けます。
雨雲から雨が落ちる、それにハローが涙をこぼす、その雨を吸った雨雲がまた雨を落とす、そしてハローの目からまた涙が零れる、その繰り返しでした。
いつの間にか空は暗くなり、雨の音が、ふたりを静かに包み込んでいました。
耳を澄ませば、ほら、
ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、ぽたり、


ぽたり


名前を呼ばれ、揺すられて、ようやくハローは目を覚ましました。
バンダナを巻いたジュラファントに、眠りながら泣いていた理由を尋ねられたハローは、たどたどしくもくじらの姿をした、子供の声の雨雲について話しました。
それは数日前のことです。
大きな手が差し出したマフラーと帽子を、ハローはそっと手に取りました。
それを見立てた女の子が、歌うように、夢見るように笑います。
「こんなに小さくなって、きっと、泣きつかれて、体をまるめて眠っているのね。
あなたと一緒にたくさんたくさん泣いたから、こんなに白くなったんだわ」
柔らかくてふわふわして、まるで雲のようなそれらを、ハローは手伝ってもらって身につけました。
とても嬉しくて、心地が良くて暖かくて、ハローは目を細めてにっこりしました。
湿気を含んで少し湿ったそれを着たまま息をすると、どことなく、振り続いていた雨が止んだ後のような、空に虹を探すときのような、静かで甘い、優しい冬の匂いがするようでした。

 

 

お子様お借りしました! (こもりさん宅ハローくんたち)
この小話とお借りしたお子様やその飼い主様は、飼い主様が「これきっとほんとにあったことだよ!」と認定しない限り、一切関係ありません

 


 

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