TREASURE HUNT


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Text


  


<second day>


ぱらり、と、また、分厚い本のページがめくられる。
クリームパフは真剣な表情を崩さずに、目でゆっくりと文字の列を辿っていった。
さながら授業で指名され、わからない問題の回答を探している、生徒のように。
風雨に晒されて、もはや掠れて消えかけた碑文を読み解く、考古学者のように。
航海の果てに手に入れた宝の地図から、目的の島を推測する、航海士のように。
じっくりと数行を読んでは、また戻る。時にページすらも巻き戻し、書かれている内容の解釈に努める。
今や脳からは現実世界の全てが追い出され、代わりに何度も読み返した文章がメビウスの輪を形成している。
世界は褪せた薄い黄茶の色をしていて、元は黒だったのであろう焦げ茶色で飾られている。
木の葉のざわめきも、風の囁きも、ムシクイの声ですらも、今のクリームパフには聞こえない。
息をしていることさえも、忘れて。
『読む』行為に、没頭する。
・・・ダカラ、ダカライイ加減宝ヲ探シニ行ケッテノ!!
がぶ。
「痛ぁっ!?」
そうして、ムシクイのジャッキーシューに尻尾の先を思いっきり齧られる羽目になった。


秋霧のたなびく島の、木の下で。
ミルクティ色のジュラファントは、ムシクイ相手に抗議をしていた。
「・・・痛かったんだよ?」
言う目の端が、ほんの少し涙で濡れている。
「そもそもシュー、ムシクイの歯の鋭さがどのくらいかわかってる?」
問われてシューは胸を張る。
「いや、何でも噛み砕く歯が自慢なのは知ってるけど。ついでに虫歯がないのも知ってるけど」
どう見ても微塵も反省していないシューの姿を眺めながら、パフは小さく溜息をつく。
今までの経験上、これ以上文句を言っても彼には通用しないし、逆に自分が疲れてしまうだろう。
何回呼ンデモ返事シナイカラ悪インダ、と開き直られた時、それを諭すのは容易ではない。
「・・・で、何だったの?」
追求と抗議を諦めて、パフはずれた論題を元に戻す。
何回も呼んだ理由をようやく尋ねてもらえて、シューの不満げな顔がようやく少し明るくなる。
ない手の代わりに頭の先で、びしりと頭上のTVを指し示した。
仕草につられてクリームパフもTVの方へと視線を向ける。
そしてそのまま硬直した。
数秒後、ぎぎいっ、と、錆びついたブリキ人形のように、ムシクイへと視線を戻す。
ご丁寧に鎖をくわえて懐中時計を引っ張り出してきたシューは、軽く足で文字盤を叩いて時間を示す。
現在時刻、午後4時過ぎ。
宝探しイベントの宝箱の配置と中身が変更されるのは、昨日のメンテナンスから判断すると午前11時から12時頃。
音を立てて立ち上がると、パフはシューから視線を外さないままG.L.L中央広場へと飛ぶ。
「教えてくれてありがとう、ごめんね、シュー!行ってくる!」
イイカラ早クオ宝ヲ見ツケテ来イヨ、と、ムシクイがツリ目を更に怒らせながらも、にやりと笑うのが微かに見えた。
フェードアウトした世界にフェードイン。地面に足がつく感覚。
中央広場は、やはりリヴリーでごったがえしていた。
昨日と様子が違うのは、心なしかゆったりした空気に包まれていること。
多くのリヴリーがもう宝箱を見つけたのだろうと思うと、クリームパフの足も自然と早くなる。
G.L.L城玄関をくぐり、最初の部屋へ。
昨日あったはずの宝箱がなくなっていることに、若干安堵し、ほんの少し気合を入れる。
今回のアタリ宝箱は2階にあるだろうと、昨日の時点で踏んでいた。
昨日は1階にあったため、『簡単すぎる』と文句を言う者も多くはないが確かにいた。
その要望に答えるとしても、あの配置の丁寧さと慎重さを見ると、まだ3階や地下室には置かないはずだと思う。
となれば、2階。
それも昨日のアタリ箱の位置からみて、中央より右側、あるいは手前寄り。
そこまで考えておいてから、クリームパフは1階の捜索を開始した。
恐らくはハズレの宝箱が1つ、もしかしたら2つ、1階に置かれている。
確信に近い推測。
手前から探していくと案の定、さほど探さないうちに、1つ目があっさり見つかった。
2階に続く高い木の根元に、昨日とそっくりな宝箱が置かれている。
ひょっとしたら、と思い、表面の文字を調べてみたが、残念ながら昨日と同じ文。
(もしかすると、数字の意味は最後までわからないまま、かな)
考えながら、錠を外し、蓋を開ける。
飛び込んでくる『ハズレ』の文字。
予想が当たっていたことに、ほんの少しの喜びを感じながら、クリームパフは2階へと移動した。
木の根元に置いてあったということは、上の階へ参加者を誘うのが目的のはず。
昨日と同様、2階の端から虱潰しに捜索を始めていくと、少し時間はかかったものの、宝箱を1つ発見した。
左のやや奥。パフは難しい本が置かれていた場所と似た配置に違和感を感じ、これはハズレだと直感する。
開けてみると、すっかり見慣れた紙切れが1枚。
最後の宝箱は、そこから壁を7枚隔てた場所に設置されていた。
2階の中では一番右、奥から2番目の部屋の隅。
錠前を外し、抑えきれない期待に目を輝かせながら、クリームパフは蓋に手をかける。
跳ね上がった蓋の下から現れたのは、硬質の輝きだった。
光を屈折・反射して、空を彩るオーロラとよく似た色に染まっている、緑の瓶。
綺麗で、どこか怪しげな、本来は小さいがリヴリーには抱えるほどの大きさの瓶。
表面に丁寧な細工が施され、水晶で作られたかのように神秘的な雰囲気が漂う、瓶。
『小瓶』。
持ち上げると微かにちゃぽん、と音がして、パフはそれを壁のロウソクの光に透かして見る。
よく見ると透明な小瓶の中には、やはり透明な、しかし光の加減か紫に近い色をした液体が入っていた。
「/home」
全ての宝箱を見つけたパフは満足げに微笑むと、呪文を唱えて自分の島へと戻る。
「シュー、ただいま」
見つけてきたよ、と声をかけ、小瓶をことりと地面に置く。
寄ってきたシューは、またも期待と違う『お宝』に思いっきり難色を示した。
何も言わなくても顔に出ている。それはもう出ている。
それでも気にはなるらしく、瓶の表面に顔をくっつけ、中身ハ何ダ?と首を傾げる。
「さあ・・・表面に文字も書いてあるけど、何語なんだろう?ちょっと読めないな」
クリームパフも気になって、綺麗な形にカットを施された瓶の蓋へと手を伸ばした。
右方向に回してみる。上方向に引っ張ってみる。
前足2本で瓶を固定して、両手を使って再度実行してみる。
・・・微動だにしない。
「ジュラファントの力で開かないとなると、相当強く封をされたみたいだね・・・」
読書バカリデ力ガ落チタンジャナイカとぶつぶつ言いたげだったシューも、自分で挑戦して諦めた。
蓋ガ外レナイ瓶ナンカニ用ハナイ! と、早々に興味を失って離れていってしまう。
その小瓶を、クリームパフはそっと両手で包み込んだ。
じっと見つめる。軽く振る。音がする。
中に入っているものは何なのだろう?
香水。普通の水。化粧水。劇薬。液体石鹸。エタノール。飲むと100回復する液体。魔女の秘薬。
想像の翼を広げながら、クリームパフは両手を上げ、高々と小瓶を持ち上げると、世界をその液体を透かして見た。
世界がエメラルドグリーンに、ヴァイオレットに染め上げられる。

中身が何かわからないから、きっとこれは謎を封じ込めた、僕にぴったりの『宝物』だと思うんだ。違うかな・・・?

 

 


 

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