TREASURE HUNT


first day / second day / third day / fourth day / fifth day / sixth day / seventh day

Text


  


<sixth day>


すぅっ、と僅かな空気の流れに反応して、ムシチョウバルーンが後ろへ振れた。
風など感じないというのに、それでも生物の気配を、呼吸を、動作を感じ取り、揺れる。
それだけ不安定なのに、呪文を唱えてもこの風船は飛んでいってしまうということがない。
2本の足が不安定な体をしっかりと支え、アイランドの地面と繋ぎとめている。
一見して細く華奢ではあるものの、それでも頑丈に出来ている。
足を残して体だけが前後へ揺れる様は、まるで目を開けたまま居眠りをしているようだ。
こっくり。
こっくり。
見つめていると、眠気を誘う優しいリズム。
瞳の輝きが薄れ、楽しい舞台が幕を閉じるように、まぶたが下りてきてしまいそうになる。
動きに、つられる。
自らの首のリズムが、重なっていく。
こっくり。
こっくり。
こっくり。
・・・ヴォン!


空間の隙間の発生音に、びっくりしたにひるんは首をかたかた! と180度くらい回転させた。
一緒に目玉もがくがく180度揺れる。ああびっくりした。こっちがびっくりした。
思って、クリームパフは一歩後ずさりかけた足を戻す。
派手で濃いピンクのバラと同じ色のカンボジャクは座ったまま、ばっちり覚めた目を擦っている。
ミルクティ色のジュラファントの姿を見つけて、にひるんはいつもの奇妙な挨拶を贈った。
クリームパフも挨拶を返し、にひるんの傍に歩み寄る。
珍しい時間の来訪にどうしたの?とにひるんは尋ねる。
クリームパフはその正面に座って友人の瞳を覗き込み、お茶目な笑みを浮かべてみせた。
「リベンジを果たしに来たんだ」
それを口実にした再戦のお誘い。
それに気付いたにひるんは、心底嬉しそうににひっと笑って飛び起きた。
時間の有無を確認して、2匹揃ってG.L.Lに移動する。
数多い、奇妙な空間の平行構成の中に存在するパークの中の1つである中央広場。
同時に移動したはずのにひるんの姿はない。
恐らく、平行世界にいるのだろう。
『表』と呼ばれる本来のパークと、『裏』と呼ばれる、表のコピーである複数のパーク。
どちらも同じ空間座標に存在し、どちらも同じように機能する。
ある程度の人数制限により表に入ることのできなくなったリヴリーは、裏へと入ることになる。
その場合、同じ座標に位置する全ての場所に存在できるのは、唯一管理リヴリーのみ。
クリームパフは気にせず移動を重ねる。
次に位置する城門前に飛び込めば、消えていく紫の尻尾がちらりと見えた。
人ごみをかきわけながら、クリームパフもそれに続く。
玄関の床に描かれた大きく不思議な絵図の中心で、にひるんはパフを待っていた。
「にひ、お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ」
にひるんは首を振り、心配しないで、と言いたげに笑った。
パフもにこりと微笑んで、それじゃ行こうか、と言おうとした。
「宝箱見つかんない。どこにあるのー?」
途端すぐ近くの叫びが耳に入って、2匹はびくりと体を固くする。
「だれか宝箱がどこにあるか教えてください!」
喉元まで出かかった言葉を止めて、2匹で顔を見合わせる。
「あ、教えましょうか?」
ヤバい。
ひそひそと顔を寄せ合って言葉を交わす。
(わわ、パフ、急ごう! 教えられたら競争どころじゃなくなっちゃう!)
(そうだね急ごう! ここで言われたら面白みも何もないよ!)
3・2・1・0!
素早く短くカウントダウンして、答えを耳にする前に、慌てて2匹は内部に続く扉へ駆け出した。
104から110へ、110から109へ。
2匹は同じ最短の道を通り抜けて、同時に2階へと到着する。
それに気付いたクリームパフは僅かに部屋から出るタイミングを遅らせた。
にひるんが飛び消えたのを見計らって、東の部屋へと移動する。
そして3階へ。
宝探しイベントも残すところあと2日となり、その難易度はかなり高くなっているはずだ。
加えて、昨日のアタリ宝箱は、地下飼育室に置かれていた。
それを踏まえて考えれば、地下の次は塔に置かれているのだろうと簡単に推測できる。
推理とも言えない推理。
3階の屋上庭園に辿り着いたクリームパフは、すぐに移動を開始する。
G.L.L城に存在する3つの塔。
そこへと入る扉の前を、1つ1つチェックして回っていく。
昨日の誘導の仕方も、以前と同じように実にわかりやすいものだった。
となれば、今回も同様に、わかりやすい位置にハズレの宝箱が設置してあるはず。
恐らく、塔の入り口前。
パフは、火ノ塔をぐるりと囲むように、四角を描くようにして移動する。
火ノ塔、水ノ塔、風ノ塔。
3階は他の階と比べて複雑な造りになっているが、塔の位置は全て把握している。
全て回って、そして何も置かれていなかった。
(読みが甘すぎたかな)
ということは、今日は昨日までとは違うのだ。
誘導はしているのだろう。
だが、その誘導は以前と比べ、誘導の意思が感じられにくいものになっているのかもしれない。
つまり、塔と塔の間。
判断がしづらい場所に、ハズレの宝箱は置かれているのではないか?
パフはそれぞれの塔の周囲を足早に飛び回る。
火ノ塔と水ノ塔の境目で、ようやく宝箱を発見した。
描かれた絵も、数字も、木目の色合いもいつもと同じ。
こちらの焦りなど関係ないと言いたげに、それはどっかりと緑の中に鎮座していた。
はやる心を抑えて、頑丈そうな錠をかちりと取り外す。
ハズレだろうと思っていても、アタリであって欲しいと願ったのだが、期待叶わず。
予想通りの紙きれが1枚、風圧にひらりとその身をゆだねただけだった。
クリームパフは、脳裏にG.L.L城3階の地図を広げる。
現在地は320。火ノ塔へも水ノ塔へも、3回扉をくぐれば行けてしまう場所。
しかし火ノ塔はG.L.L城のシンボルと言っても過言ではない。
3つの塔の中でも最も高く、その最上階に存在する火ノ間には、城主オオムシチョウが眠っている。
この宝探しイベントが始まった時から、最終日の宝箱は火ノ間にあるのではないかと思っていた。
その塔を、6日目の今日使ってしまうだろうか?
(・・・でも、最終日は誰にでも見つけられる場所に、というのもアリかもしれない)
刹那の間にそこまでを考えて、パフは水ノ塔を優先することに決めた。
急いで北西へと向かい、他の扉と違う豪華な扉の先へ、水の塔へと入っていく。
塔の内部の構造は、そこまでの部屋とは随分異なるものだ。
最上階まで続いているのは大きな木の枝でできた螺旋状の1本道。
走るには少し危ないが、足場はしっかりしていて怖さはない。
空中回廊を登り終え、クリームパフは周囲に視線を走らせた。
丸い泡のようなオブジェが並び、浅い池が設えられた、美しい青で満たされた部屋。
そこにあるのはいつもの優しい光景で、宝箱など置かれていない。
ということは。
宝箱があるのは、火ノ塔。
先程の箱が誘導と関係のない意図で置かれたものだという可能性は、後回しにすることにした。
きびすを返して扉をくぐって。
下ろうとした途端、見覚えのあるピンクパープルと鉢合わせした。
ぴょんぴょんと跳ねながら進んでいる、にひるん。
お互いあれ? と顔に出した後、すれ違いながら視線を交わして笑いあう。
まだ見つけていないとわかって、パフは少し安堵した。
とはいえ彼も、塔にアタリがあると考えて探しているらしい。
すぐに火ノ塔にも来るだろうな、と思い、クリームパフは急いで塔を降りる。
一度外へ出て、今度こそ火の塔へ。
飛び込んで、入ったところに宝箱があった。
こんなにすぐの場所にあるとは思わなかったので、危うくつまづくところだった。
というかつまづいた。前足が痛い。4輪駆動の安全性のお陰で転ばなかったけれど。
塔の入り口に置くことで、難易度の調整を図ったのだろう。
急ブレーキで傾いた体勢をわたわたと立て直し、パフは南京錠を上げて回して取り外す。
当れ、と心の中で呟いて、蓋をぐいっと引き上げる。
つるりとした黄金の光の反射が目に入り、安堵と同時に唖然とした。
宝箱の中から出てきたのは、見慣れた、特にここ数日は毎日見ている像だった。
G.L.Lのシンボルの1つである、入ってすぐの中央広場に置かれた、黄金の像。
ランキング表の代わりに台座部分に『G.L.L Castle』の文字が刻まれた、黄金像の、ミニチュア。
『ランキング黄金像』。
こんな大きくて重そうなもの、よく宝箱に入れたなぁとパフは思う。
思い返してみれば、他のアイテムも出してみたらおよそ入りそうにないサイズだった、ような。
「・・・っ、/home!」
ほんの2秒ほどの硬直を解除して、クリームパフは急いで自島に飛んだ。
気になってうずうずするのはゲームが終わってからでいい。
黄金像を島の中央にどかりと置くと、シューが目を丸くして寄ってきた。
昔マハラショップにいたムシクイは、ぽかりと大きく口を開けたまま、下から像を見上げている。
振り返り、マサカ中央広場カラ引ッコ抜イテキタノカ? と言いたげな疑いの眼差し。
を、向けられたときにはパフは既に飛んでいた。
空間を捻じ曲げ、隙間を渡り、競争相手の島へと移動する。
にひるんはいない。
代わりにムシチョウバルーンがにやりと笑う。おめでとう、君の勝ちだよ。
待つことほんの十秒ほど。
「おかえり、にひるん!」
アイテムを見つけて帰ってきたにひるんを、今度はパフがにっこりと出迎えたのだった。
「あう。負けちゃった」
にひるんがびっくりして、次に瞬きして、そしてふにゃりと残念そうな笑みを浮かべる。
その笑みはすぐにいつものにひりとした独特の笑みに変わり、首がかくりと傾けられた。
「パフ今回早かったねー! すごいや!」
にひるんは跳ねるように移動して、パフの横に足を畳んで座り込む。
「僕も今回は塔にあると思っててさ、風ノ塔、水ノ塔って回ってたら、最後の火にあるんだもん」
ちっとも悔しそうでない笑顔で言う。首が戻る。
「さすがパフ! だつもうしました!」
・・・ここは笑うべきなのか?
「ええと、ごめん、今のギャグ?」
聞くのも野暮だと思いつつ、クリームパフが尋ねると、にひるんは実に悲しそうに首を振った。
「ううん、素・・・」
流石に今のは情けなかったのか、がっくりと肩を落とす。
何だか負けたことよりショックらしい。
「きっと口がこんなに大きいから、小回りが利かないんだと思うんだ」
哀愁を漂わせながら、にひるんは鋭い牙の生え並んだ口をかちかちと噛み合せた。
「これでパフが勝って、昨日は僕が勝ったから、これでおあいこだね」
一勝一敗。これでドロー。
「3戦目は止めておこうね」
パフが言って、にひるんが頷いて、2匹で一緒に苦笑した。
きっとこの勝敗が丁度いい。
「そうだ、この黄金像。どこに飾ろうかな」
思い出したように言って、にひるんは今回のアイテムを取り出した。
「って言うか、いい使い道ないかなぁ?」
確かに、設置すると1つだけ浮いてしまって困るだろう。
「そうだなぁ・・・」
パフは首を傾げて考え込んで、幾つかアイディアを提示した。
「例えば、城壁の島の中央に置いたら似合うんじゃないかな」
「あ! 似合いそう!」
にひるんの顔がぱあっと明るくなる。
「あとは、中央広場には林檎の木があるから林檎の島も似合うと思うし」
「うんうん!」
「秘宝の島に合わせると上陸者の像みたいで面白いかもしれない」
「それもそうかも!」
こくこくと激しく頷いて、にひるんはどうするべきか考え始める。
城壁の島を買おうかなぁとぶつぶつ悩みながら、じーっと像を見つめている。
本当に黄金でできているのかはわからない。
それでも美しく、ミニチュアでも誇り高く。
精密に作られている黄金像は、2匹の表情までが細部にわたって再現されている。
大量生産されたものであるはずなのに、今にも動き出しそうなほどの素晴らしい出来。
見るものを惹き付ける何かが、この像にはある。
クリームパフは目を離すことができない。
にひるんも、熱心に像を見つめたまま動かなかった。
綺麗なだけではない、職人の魂が確かに入った、黄金像。
やがて、像から視線を外さぬままに、にひるんがそっと口を開いた。
「うーん、やっぱしこーいう王冠僕も欲しいなあ!」
一気に脱力してしまい、パフはかくりと地面に突っ伏した。

これも大事な『宝物』だよ。だって、引き分け記念のトロフィーみたいに思えるんだ。

 

 


 

『Livly Island』『リヴリーアイランド』は、ソネットエンタテインメント株式会社の商標です。
リヴリーアイランドに関わる著作権その他一切の知的財産権は、
ソネットエンタテインメント株式会社に属します。
このサイトは『リヴリーアイランド』およびソネットエンタテインメント株式会社とは
一切関係がありません。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送