TREASURE HUNT


first day / second day / third day / fourth day / fifth day / sixth day / seventh day

Text


  


<fifth day>


そっと、水フウセン草の実の表面に指を滑らせた。
薄く脆い表皮はほんの少し力を入れただけで、まるで画鋲で刺された風船のように裂けてしまう。
内側からの圧力に負けた皮は細かな断片となって四方に飛び散る。
閉じ込められていた水は光に触れ、きらきらと美しく輝きながら運命を共にする。
それらは空気と混ざって溶け消えて、そして妙なる音を響かせるのだ。
破裂音には相応しくない、水音にも似た、どこか丸く可愛らしい不思議な音。
あえて形容するならば、夏のプールで子供達がはしゃぎながら水遊びをするような。
皮と水が瞬きする間に消えてなくなるのは、気化したのだと思えば説明がつく。しかし。
どうしてそんな音がするのかわからなくて、クリームパフは朝から飽きることなく観察を続けていた。
不意に、空間が歪む音が聞こえ始めて、パフは実が割れた後に残された、丸い部分から視線を外す。
まるで紙を2つ折りにして、描かれた点と点を合わせるかのように、遠い地とこの地を接続する音。
1秒に満たない短い音と共に、圧縮された空間を渡って、来訪者が秋霧のたなびく島にやってきた。


「こんにひる! パフ、シュー、元気だった?」
静かになった島いっぱいに、奇妙で元気な挨拶が響き渡る。
姿を見なくともそれだけで訪問者が誰なのか理解して、クリームパフは笑みを零した。
ジュラファントの頭の上でうとうとしていたムシクイが、声に驚いてボロドウ帽と一緒に転げ落ちた。
慌てて下にあった水フウセン草をくわえて墜落を免れる。
頭が軽くなったので、パフはようやく来訪者へと向き直り、予想通りの相手に挨拶を返した。
シューの勢いで3つの実が割れて、音を聞いた訪問者の顔がぱぁっと明るくなる。
「あ、やっぱり宝探し参加してるんだ!」
スキップのような足取りで近づいてきて、来訪者は腹ばいに座っているパフの目を正面から見つめる。
イチゴミルクの体とスミレ色の尻尾。きちんと整えられた派手な毛並みのカンボジャクの青年。
「ねぇ、パフ」
一拍置いて。
「僕とお城でゲームをしない?」
言われてパフがきょとんとする。
提案した側のにひるんは、視線を外さず、にひひ、と、独特の楽しげな笑みを浮かべてみせた。
どうにか宙ぶらりんの状態から立ち直って、話を聞いたシューがナンダナンダと寄ってくる。
G.L.L城玄関から2人で同時にスタート。
城内にある宝箱を探し、アタリの宝箱の中に入っているアイテムを見つけ出す。
見つけたら自分の島にそのアイテムを設置する。
誰かに聞いたり掲示板見たりするのは当然禁止。
先に見つけてアイテムを置いた方が勝ちとなる。
「どう? 簡単でしょ?」
年はさほど変わらないはずなのに、子供のように目を輝かせてにひるんは言った。
毎日場所と中身が変わる、新鮮さがウリの1つになっている宝箱探しのイベント。
それでも5回目となれば、少々惰性が入ってくると言えなくもない。
にひるんが話したのは、そのイベントをより楽しむための、ちょっとした工夫。
それを組み込めば、昨日までの宝箱探しがほんの少し違ったものになる。
とても素敵な提案に、思えた。
「うん、いいアイディアだと思うよ!」
面白そうで、と付け加えると、にひるんがまたにひひと笑う。
「パフは今時間大丈夫? 大丈夫だったら行こうよ、宝探し!」
クリームパフは笑顔で頷く。
ヤルカラニハ頑張ッテ来イヨ! とシューから激励されて、2人はG.L.Lへと空間を渡った。
中央広場から城門前へ、そして石造りのG.L.L城へ。
玄関の錬金術師が持ち手のついたフラスコを支える巨大な像の前で、パフとにひるんは落ち合った。
どこにいても目立つ色をしたにひるんと、どこにいても目立つ大きさのクリームパフ。
わかりやすいね、と、顔を見合わせて笑い合う。
それじゃ、行く?」
にひるんはかたりと首を傾げる。
クリームパフは頷いて、2人だけに聞こえる声量で小さくカウントダウンを始めた。
「0になったらスタートだよ。5、4、3、」
もうすぐ開始とあって、にひるんが華やかな笑みを収める。
それでも、口元には楽しげな笑み。
全力を投じての1対1の真剣勝負なんかではない。
楽しく頑張る、友人同士の簡単な『ゲーム』。
その空気が伝わってきて、パフも自然と口元に笑みを浮かべた。
「2、1、0!」
ゲームスタート!
2匹は同時に茶色の扉へと走り出す。
2度扉をくぐっても同じ部屋に友人がいるのに気がついて、クリームパフは考えていた進路を変更する。
左の扉を通って木の根元へ行くと、G.L.L城の2階へ移動した。
同じ部屋ににひるんがいると、つい同じ進路を辿ってしまいそうになる。
相手の動きを読んで、どこにあるか、どこにないかを判断してしまう。
それはきっとにひるんも同じだろう。あまり歓迎すべき事態ではない。
だから、先に2階を捜索する。
右の端から手前に行くと、南から虱潰しに部屋を回り始めた。
とはいえ残る開催日数は、今日も含めてわずか3回。
半分を過ぎたということはそろそろ塔や地下に置かれてもいい頃合だ。
アタリの宝箱が1階や2階にあるかどうかは少し疑わしい。
それでも諦めずに1部屋1部屋探していくと、しばらくして宝箱が1つ見つかった。
期待を込めて鍵を外し、蓋に手をかけ引き上げる。
勢いでふわり、と半分宙に浮いたのは毎回見ているハズレの紙で、パフはちょっぴり落胆した。
(そううまくはいかないものだよね)
甘かった考えに苦笑して、クリームパフは左隣の部屋に移る。
そこには室内だというのに堂々と根を張っている木が生えていて、パフははっとして立ち止まった。
自らの入ってきた扉を振り返る。その先に置かれていた、今は見えない宝箱を、見る。
この宝箱の位置はおかしい。
3階へ上がることのできる部屋の隣にあるとなれば、これも参加者を誘導するためだと思いかねない。
しかし、逆に設置した者の視点に立って考えてみれば。
宝箱のある部屋から木のある部屋へ移動してくる者の確率はほぼ1/4のはず。
つまり、3/4の参加者は3階へのヒントを見逃したまま木の根元にやってくる。
これでは誘導の成果はあまり上がらない。
今までのように木がある部屋に置かなければ、参加者を3階へと導くことは難しい。
この階に1つしか宝箱がないのであれば、3階への誘導のためにここに置かれている確率は低い。
ミスリード。
駆け足でパフは残りの部屋を捜索する。宝箱は見つからない。
となれば、アタリの宝箱があるのは1階か、地下室。
自らの誤算に唇を噛んで、クリームパフは急いで階を移動する。
本当に下の階にあるのだとすれば、1階から回っているにひるんが断然有利になるのは間違いない。
記憶を頼りに地下を目指す。
地下通路への入り口がある部屋は、南東西の3方向を白みがかった石造りの壁に囲まれている。
北の唯一出入りできる扉の前をふさぐようにして、見慣れた文字の刻まれた宝箱が設置されていた。
きっとこれもハズレの紙が入ったものだろうな、とパフは思う。
思う間に南京錠を手早く外し、左手で床に置きながら右手で蓋を跳ね上げる。
予想通りの中身をちらりと見ると、すぐに元に戻して再び走り出した。
先程とは違う、G.L.L城の構造を知っている者ならばすぐにわかる、自然な誘導。
こっちが本命の誘導であるならば、当然地下通路のある部屋へ誘っているのだろう。
そして、アタリの宝箱は地下にある。
確信を抱いて、クリームパフは地下へのはしごに駆け寄った。
地下通路を進んだ先には2つの部屋がある。
その中でも東側の地下3階秘密の部屋は、行き方がやや難しくなっている。
途中で人形が指し示す、壁に紛れた隠し扉を開けて隠し通路を進まなければ辿り着けない。
その上様々なものが乱雑に置かれているから、部屋の中で宝箱を探すのも難しいだろう。
半分を終えたばかりの現時点で選択するならば、比較的簡単な地下飼育室への道。
瞬間で判断し、迷わず南に向かってパフは進む。
1本道を駆けて地下飼育室に辿り着くと、さっと視線を走らせた。
Livly Islandの全パークに大雨が降って以来、何故か大人しくなったm-002号。
それがしゃがみこんで、左手の親指をしゃぶりながら、床の一点をじっと凝視している。
視線の先を辿るまでもなく傍らに置かれた宝箱が目に入った。
鍵を外す。少し焦っているので思うように開かない。
やっと蓋を開けると、中からぷかりと青いが顔を出し、クリームパフと目を合わせた。
それは何だかとぼけた顔をした、デフォルメしたムシチョウの形をしているビニールの風船。
浮力はそんなに強くなく、黄色い水かきが地面にしっかりとついて揺れている。
G.L.L2周年のイベントのときに飾られていた、本物のムシチョウに近い大きさの、風船。
『ムシチョウバルーン』。
懐かしさに目を細めて、クリームパフははっとした。
今はそんな場合じゃない。
「/home!」
わたわたしながら自分の島へ戻り、木の葉のベッドの上にムシチョウバルーンを飾りつける。
シューが、勝負ノ結果ハドウナッタンダ?と言いたげに見つめてきた。
それに答えを返す間もなく、クリームパフは口早に呪文を唱えて、にひるんの島へと移動する。
「あ、いらっしゃい、パフ!」
そして陽気に出迎えてくれたにひるんの姿に、がっくりと肩を落としたのだった。
いつもにひるんが足をたたんでくつろいでいる丸型クッションの上で、風船はゆらゆら揺れている。
「僕の勝ちだね」
にひにひ笑ったにひるんに、クリームパフは苦笑しながら拍手を送った。
ふと思い出して、少し気になって尋ねてみる。
「ええっと・・・敗者の罰ゲームとかは?」
「ないよ」
即答された。
「なーんにもなし。罰ゲームも賞金も!」
そう言ってにひるんは、上目遣いにクリームパフを覗き込む。
「パフ、楽しかった?」
くるくると表情を変える黒くて丸い瞳の奥で、心配げな光がちらついている。
くすり、とパフは笑みを浮かべる。
「うん。ありがとう、にひ」
嬉しそうに笑ったにひるんは、かたりと首を振って照れる。
尻尾が微かな風に揺れていたムシチョウバルーンに当って、ほんの僅かに位置がずれた。
2人の興味が、今回の戦利品へと引き戻される。
「この風船、すごくいい顔してるよね」
昔、イベント広場に2匹並んでいた時には本当にいい味出してたよ、と、パフは思い出しながら言う。
それを体験していないにひるんも、かくりと頷いて言葉を重ねた。
「だよね、何ていうのかな、この風船にはあいきょんがある!」
・・・あいきょん?
「それって、愛嬌?」
「そう。愛嬌って言おうとしたんだけど」
言葉はわかってるんだけど、ばっちり決めようとした時に限って口が間違えちゃうんだよね。
何でだろ、と言いながら、かちかちと鋭い歯を鳴らしてほんのちょっぴりすねている。
年と性別をわきまえない愛らしさに、クリームパフはこみ上げてきた笑いを堪えた。
「そうだね、愛嬌があるよ。多分、ポイントはにやりとして見えるこの口だよね」
手でムシチョウバルーンを指し示す。立ち直ったにひるんが同意する。
「あ、僕もそれ思う! ニヒリストの浮かべる笑みに似てるよね」
妙に力を入れて言う。
名前のせいか、にひるんがニヒリストに憧れているのは知っている。
それでも生来の明るさが邪魔をするのか、何だかズれてしまっている辺りが微笑ましい、と思う。
「ニヒリストってこういう笑い方をするものなんだ?」
「うん、ニヒリストはにやりとかにひひとか笑うものなんだよ」
だから、きっと、とにひるんは続ける。
「このムシチョウは、ニヒリストなんだよ!」
大真面目で言い切ったにひるんに、今度こそクリームパフは噴き出した。

負けたけれど、これは楽しかったゲームの思い出が詰まった、大切な『宝物』になったよ、にひるん。

 

 


 

『Livly Island』『リヴリーアイランド』は、ソネットエンタテインメント株式会社の商標です。
リヴリーアイランドに関わる著作権その他一切の知的財産権は、
ソネットエンタテインメント株式会社に属します。
このサイトは『リヴリーアイランド』およびソネットエンタテインメント株式会社とは
一切関係がありません。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送