TREASURE HUNT


first day / second day / third day / fourth day / fifth day / sixth day / seventh day

Text


  


<third day>


そこには、黒い世界が広がっていた。
永遠に続く闇のようではなく、月に照らされた夜のような。
恐怖に捕らわれない、安心して身を委ねることができる、居心地のいい優しい黒。
微かな水音が耳に届いて、まるで深海から生じた泡のように、意識はゆっくりと黒い世界から浮上する。
ぷかりと水面に顔を出した泡が空気に触れて、薄い膜が音を立てて、弾け飛んで。
クリームパフは、目を覚ました。
秋霧のたなびく島のいつもの場所。太い幹から大きく広げられた枝の下。
どうやら、昨日の宝物をじっくりと眺めているうちに眠ってしまったらしい。
隣を見ると、横になった小瓶が光を屈折・反射して、不思議な色に輝いていた。
倒れた水音で目が覚めたのかと得心して、クリームパフは小瓶を手元に引き寄せる。
ガラスの色の加減で紫に見えているが、中の液体はピンク色かもしれないとパフは考え直していた。
ピンク色だったら・・・中身は惚れ薬、とかかな。
また一つ可能性を思いついて、その安直さにくすりと笑った。
ふと気がついて、ミルクティ色のジュラファントは現在時刻を確認する。
もう一度眺める。島を見渡す。首を傾げる。
とっくに宝探しは始まっているのに、起こしに来るはずの短気なムシクイが見当たらない。
どうしたのだろうと首を捻り、もっとよく探そうと立ち上がる。
密かに眠っていたムシクイが、その背中からバランスを崩して落っこちる。
そして盛大に地面とキスをして、パフは散々怒られた。


土まみれで憤慨するシューに平謝りして、「宝探しの時間だから」を言い訳にして。
永遠に続きそうだった小言から逃げるようにして、クリームパフはG.L.L中央公園へと移動した。
今日こそはシューが好みそうな『宝物』を見つけないと。
そうでなければ帰ってからが恐ろしい。
思考回路のスイッチを切り替えて、クリームパフは花火が上がるG.L.L城へと飛ぶ。
左右でほんの少し表情が違う、黄金のムシチョウ像の間を通り抜けると、石造りの小屋が見えてきた。
同じく小さな煙突からは、今日も白い煙が立ち上ってはふわりふわりと消えていく。
先程のごたごたで少し張っていた気が緩んで、クリームパフの表情が和らぐ。
G.L.L城の玄関で立ち止まって、深呼吸してそっと気合を入れなおした。
思い返せば、初日の宝箱は1階に。
次の日の宝箱は2階に置かれていた。
そう考えれば、今日の宝箱は3階にあると考えるのが妥当だろう。
・・・流石に、推測の理由が単純すぎるかな?
考えながら、クリームパフは1階を順番に回っては念のために確認していく。
今日は一週間のうちの、まだ3日目。
まだまだ塔や地下室といった難しい場所には置かないんじゃないかと思う。
もし今そういった場所に設置したら、難しくなるはずの後半で、アタリを置く場所に困ってしまうはずだ。
地下室も含め、宝箱が1つも置かれていないのを確かめてから、パフは木を伝って2階へと移動する。
3階にアタリがあると仮定して、昨日と同じパターンなら、2階にハズレの宝箱があるかもしれない。
手前から進んでいくと、3階に続く南側の木の根元で宝箱を発見した。
デザインも書かれた数値も今までと全く変わらない、いつもと同じ宝箱。
ひょっとしたら昨日や一昨日にも使われていた宝箱なのかな、と、クリームパフはじっと観察を始める。
傷一つない綺麗な木目。
普通に考えたら新品だろうけど、そもそもこの宝箱に傷はつくのかな?
パフは考える。
昨日出遅れて宝箱を見つけた時にも、宝箱に目立った傷や汚れは見当たらなかった。
何千、ひょっとしたら何万というリヴリーが開けたはずの宝箱。
手垢やちょっとした傷くらいついていても、おかしくはないはずだというのに。
・・・いやいやでも、今はそれは置いておいてアタリの宝箱を見つけるのが優先事項。
クリームパフは終わらない思考を断ち切って、とりあえず目の前の宝箱の中身に思いを馳せる。
もし推理通り本当に宝箱が3階に置かれているならば、昨日のように誘導があるのかもしれない。
誰にでも宝箱に辿り着けるよう配慮された、単純で親切なシステム。
それを考えるとこれは、本命へ誘導するためのハズレの宝箱である可能性が高い。
パフは宝箱に手をかける。
意外と器用な2本の白い手で錠を取り外し、重い蓋を持ち上げると、予想通りの文字が風に揺れた。
推理の正解に、ほっと安堵の笑みを浮かべる。
どっしりと根を下ろした木の上方を見上げて、前回同様そのまま3階に移動した。
緑に溢れ、1階や2階よりもずっと入り組んだ構造をした、G.L.L城の3階。
屋外へ出たからなのか、何故か1・2階より広いこともあって、ここを探すのは大変そうだった。
あまり来ない3階の間取りを思い出しながら、部屋を飛ばさないよう慎重に探していく。
迷路のような構造だけに、特に四隅の部屋は1箇所見逃すと3部屋を探し忘れてしまったりもする。
よくわからない道を、もう一度戻るのは避けたかった。
ようやく宝箱を見つけることができたのは、南西の角の部屋まで来てからだった。
隣に埋まった、ユーモラスな顔の、草まで生えた石の顔が、よく見つけたねと笑って見える。
これもハズレか、それともアタリか。
クリームパフは歩み寄って、期待にわくわくしながら鍵を取り外す。
蓋を上げると、まるでそれを待ちわびていたかのように、黄金の輝きが溢れ出した。
つるりとしたふちの、平べったい、円形をした金属が、何枚もそこには入っていた。
それぞれ表の数値に合わせて大きさが異なる、『Livly Island』の文字の彫られた、金属。
裏には薔薇の花が美しく彫り込まれた、光を反射してきらりと金色に輝く、硬貨。
『コイン』。
やっと見つけた、シューが喜びそうな宝物に、クリームパフの顔が綻ぶ。
それにしても、このコイン。
何だかどこかで見たことがあるような気がして、パフは内心首を捻る。
薄布のようにまとわりつく、朧な既視感。
どこで見たんだっけと悩みながら、とりあえず最後の宝箱を探そうと歩き出す。
そして茂みのアーチをくぐった途端、クリームパフの目がきょとんと開かれた。
宝箱が、置いてある。
あれ? と首を傾けて、パフは後ろを振り返る。
また前を見る。宝箱がある。
あまりの展開に苦笑しながら開錠し、蓋をぱくりと持ち上げると、見慣れた3文字が宙を舞った。
(まさか、隣の部屋にあるなんて)
これもまた、比較的難しい3階という場所に配置するための誘導だったのかもしれない。
3つの宝箱を全て見つけて、クリームパフは帰ろうと呪文を唱え始める。
半分唱えたところで、不意に思い出した。
(もしかしたら、このコインって)
思い付きに近い考えが、考えるうちに確信に近いものへと変わっていく。
もう一度考える。そして動きを止める。
一度気付いてしまったら、いてもたってもいられない。
「/move HappinessWorld」
シューに見せる前に、どうしても確認したくてうずうずして。
唱えかけていた呪文を中断して、クリームパフは友人の島へと飛んだ。
空間を移動し、硬質の上に着地する。
金属の擦れるじゃらじゃらとした音と共に、不安定な足場が少し崩れた。
「あれ? いらっしゃい、パフ!」
驚いたような、それでいて嬉しそうな声をあげて、小さなラヴォクスがクリームパフを出迎える。
見る人を誰でも幸せにしてしまうことができそうな、ふんわりとした笑顔が印象的な女の子。
プラステリンを使った鼻は愛らしくつんと伸びていて、頭にはシルクハットを可愛く被っている。
バニラアイス色の毛並みは綺麗に整えられていて、持ち前のおしゃれ心がうかがえた。
ほんのり甘くて優しい香水の香りが、パフの鼻孔をそっとくすぐる。
「こんにちは、ハピ! ちょっと島を見せてもらってもいいかな?」
Happinessの笑顔につられるように、クリームパフも笑顔で挨拶を返す。
2つ返事で許可が出て、お礼の言葉を言いながら、パフは秘宝の島をぐるりと見回した。
奥には金色の壷や大きな宝箱が立ち並び、手前には財宝の海が広がる、どこか不思議な島。
腰を下ろすと、クリームパフは島に散らばっている黄金のコインを一枚手に取った。
そしてじいっと観察する。
表面には『10 Livly dd』の文字。裏面には薔薇の花。
顔を上げると、今度はリヴリーブックから先程見つけたコインを取り出した。
山の中から1枚を選び、それをまたじっくりと観察する。
左手でそれを持ったまま、右手で島のコインを拾い上げて比較する。
同じ文字。同じ模様。
厚みも手触りも大きさも、同じ。
既視感の正体はこれだったんだと確認して、パフは晴れやかな表情を浮かべた。
「あ、パフが持ってるのって、今日の宝探しの景品だよね!」
ちょこちょこと歩み寄ってきたHappinessが、その背中に声をかける。
「あたしもさっき見つけてきたの。秘宝の島とお揃いで、ちょっと嬉しくなっちゃった」
クリームパフもコインを片付けHappinessの方へ向き直ると、改めて島をぐるりと見回した。
「この島にコインを置いたら、どれが拾ってきたコインかわからなくなりそうだよね」
「うん、後で回収するのに困っちゃいそう!」
そこで一息入れて、Happinessは続ける。
「でも、あたしはコインで山を作って、その上にアイテムを置くのも素敵だと思うの」
「ああ! そのレイアウトは思いつかなかったな」
ぽんと手を打って褒められて、照れたHappinessがえへへと笑う。
「そうだ、パフ、紅茶は飲んでく?」
Happinessからの素敵な申し出に、パフは少し考えてから首を横に振った。
「ううん、シューを待たせているから。せっかくだけど、今日は止めておくよ」
「うん、わかった! また今度ね!」
すまなそうなパフに、Happinessは気にしないでと笑顔を返す。
別れの挨拶を交わして、クリームパフは再度呪文を唱え始める。
「/home」
ぱたぱたと手を振る友人の姿が小さくなり、消えた。自分の島に降り立つ。
コインを山と積み上げると、寄ってきたムシクイは飛び跳ねるようにして大喜びした。
コレッテドコカデ使エルノカ? と言いつつも、1つ1つ足しては総額を計算してみている。
その様子を少し離れた木の下で眺めながら、クリームパフはそっと微笑んだ。
シューが数えたコインを口でくわえては、傍らに器用に積み上げる。
バランスが悪くて山が崩れ、生き埋めになりかけてはじたばたしながら這い出してくる。
貨幣の価値に喜んでいるというよりはおもちゃで遊ぶ子供のようで、パフは小さく噴き出した。
ジャラジャラと鳴る音が友人の島を訪れた時の音と同じだと気付く。
秘宝の島の欠片がここにあるように、感じる。
話に聞いては、秘宝の島を見たいと言っていたシュー。
これも夢が叶ったと言えるのだろうか?

僕にとってはコインも金銭的な価値では量れない『宝物』だよ。シューの願いが叶ったからね。

 

 


 

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