TREASURE HUNT


first day / second day / third day / fourth day / fifth day / sixth day / seventh day

Text


  


<seventh day>


頭を下げる。
腹ばいになり、足を伸ばし、口を、頭を、地面すれすれにまで近づける。
島一面に茂る青々とした草が目に入りそうで、クリームパフは目を閉じた。
視界がぼんやりとした薄明るい闇に閉ざされる。
不安を感じない、提灯の明かりに照らされた暖かい夜の色をした闇。
細かな光の粒子がその中を揺らめき、次々と形を変えていった。
微かな風が耳元を通り抜けていく音が聞こえる。近くで草を踏む音がする。
軽い足音はパフの傍へとやってきて、そしてすぐ横に来たと思うと消えてなくなった。
代わりに頭上の確かな重みを感じ取って、クリームパフは顔を上げた。
目を開ける。そろり、そろりと注意深く、ゆっくりとその高度を上げていく。
芝生が少しずつ遠のいていき、普段の視界で見る半分ほどの大きさになって、止まった。
頭をぴたりと動かさずにいると、重みが前方へ移っていき、そしてパフは解放される。
普段の姿勢に戻り、首に見える部分を一振りする。
そしてその場から数歩方向を変えずに後ずさると、島に飾られた黄金像を改めて見つめた。
うつくしく生き生きと彫りぬかれた、ムシチョウの背に乗ったピグミーの王子。
その堂々たる王子の前には、ムシチョウの背にちゃっかり腰を下ろしたシューの姿。
気分で色を変えるムシクイの今日の色は黄色で、完璧なまでに黄金像と同化している。
王子というより騎士気分で、シューは恰好つけてびしりとポーズを決める。
そのあまりの微笑ましさに、パフは思わず破顔した。


宝探しイベント最終日。
秋霧のたなびく島の主、クリームパフは、いつになく島でのんびりしていた。
謎を解き、経験からアタリの場所を推測する楽しい冒険も今日で幕を閉じる。
そう思うとなんだかひどく名残惜しい気分になった。
最後の楽しみをもう少し取って置きたくて読んでいた本が数冊、パフの周囲に散らばっている。
島を囲み、それでいて本を濡らすことのない霧が風に揺らめく。
シューが黄金像にまたがって様々に、格好良いと自分で思っているポーズをとっている。
しばらくしてシューが飽きて像から滑り降りるのと、頁の上に裏表紙が重なるのはほぼ同時だった。
自然と視線が重なって、お互いに笑う。
口に出さなくとも、なんとなく気持ちは通じ合った。
「うん、それじゃ、そろそろ行ってくるよ」
読み終えた本を重ねて運んで片付けて。
お気に入りのキャスケット帽をきゅっと被りなおして、パフは同居人に声をかける。
イイモノ見ツケテコイヨ!と言いたげに返ってきた見送りの仕草に笑顔を向けた。
頑張ってみるねと返事をして、空間を開く。
しばらく味わえないわくわく感に心を浸しながら、クリームパフは小さな島を後にした。
宝箱の配置が変わってから随分経つのに、中央広場は相変わらず混雑している。
イベントの余韻を残したリヴリー達の間を通り抜け、白い案内板に歩み寄った。
大きな地図に白い指先で触れ、G.L.L城門の前へ飛ぶ。
今日もふわふわと煙の上がる小屋の横を、たくさんのリヴリーが歩いている。
その列に混ざって、所々に花が咲いた灰色の石畳の上を歩いて進む。
いつものように城門を抜け、木製の扉をくぐり抜けて。
入った先に宝箱が置いてあるのを見て、パフはきょとんと目をしばたかせた。
大きな錬金術師の石像の前、不思議な模様の描かれた床の上。
それはまあ、最終日は簡単にするか難しくするかのどちらかだろうと思っていたけれど。
ここまで簡単になっているとは思わなかったなと、パフはしげしげと宝箱を眺めた。
いつもは玄関で心の準備をしているから、不意をつかれて嬉しいような、残念なような。
宝箱の1つがここにあるということは、今日は誰でも見つけられるような配置になっているはず。
他の宝箱も発見しやすいよう、とても簡単な場所に置いてあるんじゃないかと思う。
きっと、玄関と同じ一階。
あっても隣接している2階か地下で、階を行き来できる部屋からそう離れてはいないはず。
(まさかいきなりアタリということは、ないよね?)
それではハズレを置く意味がないと思いつつも、少し心配しながら宝箱の蓋を持ち上げる。
ひらりと舞った「ハズレ」の文字に、パフは安堵の息を吐いた。
ここで終わってしまったら、『宝探し』なのに宝を探すまでもない。
楽しみに輝いた目を扉に向けて、クリームパフは再び先へ進み始めた。
まずは東の部屋へ、突き当たったらそのまま北へ。
それほど進まないうちに、また宝箱が置いてある部屋に辿り着いた。
予想通り早い段階で2つ目の宝箱を見つけて、パフの口元が僅かに綻ぶ。
とはいえ、この部屋があるのは玄関からたったの3部屋だけ離れた場所だ。
そんなほぼ離れていないような場所に、最終日の宝物、最高級のお楽しみを隠すだろうか?
クリームパフは考える。
自分なら、もう少しだけ奥まったところに隠すはずだ。
だって楽しみにしていたアイテムなんだから、少し苦労して見つけたほうが嬉しさも増すし。
だからこれは多分、ハズレ。
ほとんど確信に近い推測の元、頑丈そうな宝箱の鍵を外した。
手をかければ蓋は勢いよく開いて、そして、パフは再び目をぱちくりさせることになった。
宝箱の中に入っていたのは見慣れたハズレの紙ではなかった。
宝箱だった。
「・・・マトリョーシカ?」
ぽかんと開いた口から無意識に零れ落ちた独り言は、床の割れ目に吸い込まれて消えた。
宝箱の中に、一回り小さな『ミニ宝箱』。
ロシアの入れ子人形を思い出さずにはいられない、あまりにもシュールな展開。
瞬きをもう一回。ぱちり、ぱちり。
少し開いたままだった口を閉じる。とりあえず観察してみることにする。
少しずつ色の違う木材と、金色の金具で作られた小さな宝箱。
持ち運びがしやすいように、上部と側面にはそれぞれ取っ手がついている。
どうやら、宝探しに使われていた宝箱を完璧にミニチュア化したもののようだった。
側面に絵が、蓋に文字が書いてあるのも一緒だった。
紫色のG.L.Lのマーク。『LIVLY ISLAND G.L.L CASTLE 000156800x』。
(リヴリータイムズには、最終日のアイテムはミニリヴリーだって書いてあったと思ったけど)
クリームパフは小首を傾げる。
色々と調べてみたいけれど、リヴリーの出入りが多い部屋では邪魔になってしまう。
とりあえずいったん島まで持って帰ることにして、帰還のための呪文を唱えた。
「/home」
空間が繋がる。体と意識が移動する。
音と共に自分の島に降り立つと、改めてミニ宝箱を取り出した。
待ちかねていたムシクイが寄ってくる。
どう見ても宝箱にしか見えないアイテムを見つけて、シューは目を輝かせた。
更に近寄って、中身ハナンダ?と覗き込む。
パフが一歩退いて場所を譲ると、これまた本物そっくりに作られた南京錠に取り組んだ。
腕を持たないながらも開けようとして、開けようとして、開けようとして、さっぱり開かない。
噛み付いても壊れない南京錠とにらめっこしているムシクイの視線が、移動した。
じぃっとこちらを見つめられて、クリームパフは苦笑しながらシューと場所を入れ替わる。
その場に座ってかちゃかちゃといじくること、数回。
「あれ?開かない」
不思議そうに呟いたパフの足を、ナニ言ッテルンダとシューが蹴る。
「いや、本当に開かないんだって。ちょっと待って」
ダメージにならない、ちょっとした意思表示のそれを汲んで、クリームパフは鍵を見る。
G.L.Lに置いてあった大きなものとは違って、きっちり鍵がかかっていた。
中身は何なんだろうと、両手で持ち上げて振ってみても音がしない。
いっぱいに何かが詰まっているのか、何も入っていないのか。
シューが鍵ハナイノカと視線で問う。返事の代わりに首を振る。
鍵と言われて思いつくのはアジトの鍵くらいで、そしてそれではきっと開かない。
クリームパフは首を捻る。
ひょっとしてミニ宝箱がミニリヴリーで、口が開いてぱくぱくしたりするのかな、とも思ったけれど。
(どうも、違いそうだよね)
開かない宝箱をもう一度見る。
これが、リヴリータイムズに書いてあったミニリヴリーではないとしたら。
(・・・もしかしたら)
どこかと島が繋がる音が、パフの思考をさえぎった。
ヴォン!
独特の音と共に降ってきたのは、ピンクと紫のちょっぴり派手なカンボジャク。
「こんにひる!」
音以上に独特な挨拶を送られて、クリームパフは我に返って挨拶を返す。
「あれ、いらっしゃい、にひるん!」
歓迎されたにひるんは、にひにひと楽しげな笑みを浮かべて寄ってくる。
「宝箱があるってことは、パフも宝探しに行ったんだね。全部宝箱は見つけた?」
くるんと首を回してにひるんが尋ねる。
その言い回しににひるんの気遣いと含みを感じ取って、クリームパフは笑みを浮かべた。
「ううん、まだ1つ見つけてないよ。
全部見つけないと気になるから、後で探しに行こうと思ってるんだ」
パフの言葉の意図に気がついて、にひるんの笑みがぱあっと広がる。
「そっか!じゃあ、早く探してくるといいよ!」
そしたら僕の島に来てね、とうずうずした表情でにひるんは言う。
含みに加え、何か言いたいことがあるんだろうなと察して、くすりと笑ってパフは立ち上がった。
「了解。じゃぁ、今からちょっと探しに行ってくるよ」
「うん!えーっと、僕は島で待ってるね!」
話の展開に置いていかれたムシクイが、ナンダナンダと2匹を見ながらきょろきょろしている。
「というわけだから、行ってくるねシュー」
かけられた言葉に反応した時には、クリームパフの姿は島から掻き消えていた。
G.L.L中央広場から城門前、お城の玄関までを駆け抜ける。
先程回った場所は調べずに、そのまままっすぐ進んでいく。
ほどなく奥の部屋から折り返してきたパフは、地下への道がある部屋に辿り着いた。
同じ1階に2つもアタリがある可能性よりは、別の場所にある可能性の方が高い気がする。
それならば地下を先に調べることにして、パフは梯子を降りていく。
降り立った先の薄暗い部屋で、ぐるりと周囲を見回した。
この先に続いていく道は2つ。
片方はm-002号の元へ、もう片方はプラム・ピーの元へ繋がっている。
2つの道を見比べて、クリームパフは思案する。
確か5回目の時、ムシチョウバルーンが置かれていたのがm-002号の部屋だった。
となれば次はプラム・ピーの部屋、もしくはそこに至るまでの道に置かれている可能性が高い。
先にそちらに行くことにして、クリームパフは歩き出す。
扉をくぐり、一見行き止まりにも見える隠し扉を抜ける。
初めてここに来た時には、仕掛けに少し驚いて。面白いなぁ、と感心したのを覚えている。
像がその先を示していてくれたから、悩むことはなかったけれど。
長い長い梯子を降りる。ここまでは、宝箱は置かれていない。
G.L.L城の地下3階。
秘密の部屋に降り立って、クリームパフはきょろきょろと宝箱を探す。
置かれているのはピグミーのぬいぐるみ、様々な大きさや種類の木の実、数枚の枯れ葉。
その傍らには、豪奢なワイングラスが1つ、床にそのままの形で倒れている。
向こうにはティーポットと燭台が見える。フリルのついたクッションがいくつも置かれている。
・・・けれど、散らかり放題の部屋の中で、宝箱はどこにも見あたらない。
クッションの隙間に隠すはずもないし、まさかあの巨体の下に敷かれているとも思えない。
となれば、もう片方の道か、他の場所か。
(論理的思考で、全てを計ることができるわけがないよね)
わかってはいてもちょっぴり悔しい。
悔しさの分だけ早く見つけたいという気持ちは募り、パフは分岐点まで急いで戻る。
せっかくここまで来たのだから、地下を全て回っておくべきだろう。
またm-002号のところとは思えないけれど、途中に置かれている可能性は否定できない。
確率は低いけれど、それでも少なくとも1階や2階よりは、ここにある確立は高いと思う。
先程の落胆を振り切って、再び急ぎ足で歩みを進める。
別の部屋へと続く扉を勢いよく開けて、そしてそこでクリームパフの動きは停止した。
目の前には最後の最後の宝箱。
しかし固まったのは、それが嬉しかったからでも、それに驚いたわけからでもない。
いや、確かに嬉しかったけれど。驚きもしたのだけれど。
そうでは、なくて。
(・・・け、煙・・・?)
ぽかんとした顔で、クリームパフは宝箱を見つめる。
だって、だって煙が噴き出しているのだ。
その目の前の、一見何の変哲もない宝箱から。
(宝箱が煙を噴いてる・・・?いや、湯気、かな・・・?)
規則正しいリズムで、蓋の部分から煙は噴き出す。
ぼふぼふ、という噴出音が、それに重なって耳に届く。
ついでになんだか宝箱自体が、黄色の光のエフェクトをまとっている気がする。
きらきらした輝きが目に眩しい。綺麗というより煙と合わせて余計に怪しい。
なんとも奇妙な。
ついでにシュールな。
(宝箱が生きている・・・わけは、ないよね)
まじまじと、パフは宝箱を観察する。
呼吸をしたり、動いている様子はない。
まさかこの煙が呼吸代わりの、微動だにしない生物ということはないだろうし。
(となると、考えられるのは)
中に何か、生きて動いているものが入っている。
ミニリヴリーへの期待に胸を膨らませて、クリームパフは輝く蓋に手をかける。
手馴れた仕草で鍵を外し、重量のある蓋を持ち上げれば、愛らしい瞳が隙間から覗いた。
ゆっくりと差し込む弱い光に照らされて、その姿が徐々に見えてくる。
紫色をした体。白いギザギザの模様。4本の小さな、可愛らしい足。
体に不釣合いなほどに大きな頭の先が、見ているうちに綺麗な赤紫色に変化する。
同時にぽふぽふと白い煙を吐き出して、それはじっとクリームパフを見つめていた。
狭くて暗い箱の中で、ずっと彼を待ち続けていた小さな存在。
『トープス』。
「こんにちは、初めまして」
その姿に微笑を浮かべて、クリームパフは挨拶を贈る。
「僕はジュラファントのクリームパフ。『秋霧のたなびく島』に住んでいるんだ」
ぼふ、ぼふとトープスが煙を吐き出す。
「同居人はムシクイが1匹。少しお調子者で短気だけど、すごくいい子だよ」
また、ぽふん、ぼふん、と音がして、煙が空へ溶けていく。
「霧と、穏やかな時間が流れる島なんだよ。・・・ああそうだ、君、霧は嫌いかな?」
ぼふぼふぼふっと煙が続いて、トープスの上空が白く染まる。
そこに否定の意思を感じ取って、クリームパフの口元が綻んだ。
「それは良かった!それで、アイテム発見者として君に提案なんだけど」
ばふ、ばふ。
「君さえ良かったら、僕の島で一緒に暮らさないかな?」
アイテムは発見者のものになるとはいえ、やっぱり同居を強制するようなことはしたくない。
分類はアイテムだと知っていても、ミニリヴリーを普通の物のように扱うようなことは、したくない。
だから最初にちゃんと了解を取っておく。
断られてしまったら、とっても残念な思いをすることになるけれど。
「本当に、もしも君が僕と来たいと思ってくれたら、なんだけど・・・」
ちょっと自信なさげに念を押して、パフは静かに相手の反応を待つ。
返事はすぐに返ってきた。
ぼふっ。
提案者が肯定か否定か迷う前に、トープスは4本足をじたばたと動かす。
短い足では深い宝箱から脱出できないとわかっているだろうに、それでも出ようと頑張っている。
クリームパフはくすりと笑った。
短い足でちょこちょこと動く様子はどうしようもなく愛らしく見えて仕方がない。
両腕でトープスを抱きかかえて、その重みという幸せを感じながら。
パフは安心させるように笑って、帰島のための呪文を唱える。
「/home」
初めての空間移動に、トープスは紫と黄に縁取られた目を興味深げに輝かせた。
一瞬で空間と空間は接続され、その一点を通って2匹は島へと到着する。
抜けた空間は収縮し、跡形もなく消え去って、残るのはいつもの穏やかな島の空間だけ。
「ようこそ、『秋霧のたなびく島』へ!」
楽しげな声音でおどけてみせて、クリームパフはトープスを地面へと降ろした。
待っていたムシクイが目を丸くして、自慢の足で駆けてくる。
「紹介するよ、シュー。こちら、今回の宝探しの目玉で新同居人のミニリヴリー、トープスさん」
低い位置から丸い目が、今日は赤い色をしているムシクイをじっと見上げる。
「で、こっちがさっき話した、ムシクイのジャッキーシュー」
しゅーデイイゾ、ヨロシクナ!
大きな口をにやっとつりあげて、シューもトープスに挨拶する。
「島では好きに過ごしてね。のんびり楽しく!」
一緒にシューも同意して、にやにや笑いのまま大きく頷いて見せた。
ぼふ、ぼふ、とトープスの頭から煙が出てくる音がする。
吹く風は心地良く、霧は今日も穏やかに優しく島を包み込んでいる。
いい日だなぁ、と微笑んで。
楽しかった宝探しに思いを馳せて、クリームパフは薄い木漏れ日の中に腰を下ろした。
少し目を伏せれば、連日G.L.L城を駆け回った疲労がじんわりと忍び寄ってくる。
ついついまぶたは重くなり、呼吸は深くなっていく。世界の光が融けていく。
そよ風が頬を撫でて、煙の上がる音があまりに規則的で、そのままゆっくりと落ちていって。
眠る寸前、誰かにツンツン、と足先で蹴られて目を開けた。
見ればシューがそこに立っている。かと思うと、そのままぴょんぴょん、と跳ねている。
がじがじと口を開けては閉じてみせる仕草で、何を言いたいのかに思い至った。
少し前に交わした、宝箱を見つけたらにひるんに会いに行く約束!
宝探しの満足感でいっぱいで、忘れたりはしていない。勿論。
「うん、わかってるよ。でも」
視線で来たばかりのトープスを指す。
たった今来たばかりで、今はきょろきょろと島を見て回っているようだけど、こんなに早く、島に置いて出かけるなんて、少し心配になってしまう。
シューはマカセテオケ、と言いたげに胸を張る。
オレニダッテアイツヲ見テルクライデキルニキマッテルダロ!
ほんの少しだけ迷ってから。クリームパフはシューの目を見て、微笑んだ。
「ありがとう、シュー。トープスを頼んだよ」
頼りにされたシューの顔が、ぱっとわかりやすいほどに明るくなる。
大人扱いして貰えたその顔は本当に嬉しそうで、クリームパフの頬も思わず緩む。
「じゃ、ちょっとだけ行ってくるね」
はりきるシューと、少し落ち着いてきたトープスに声をかけて。
「/move にひるーむ」
接続を感じて目を閉じて、クリームパフは呪文を唱えて友人の島へと飛んだ。
うとうとしていたにひるんが、寝ていたクッションから勢い良く飛び起きる。
「パフ、いらっしゃい!最後の宝箱、見つけた?」
かくりとピンクの首を傾けて、愛らしいカンボジャクは訪問者に尋ねる。
肯定の言葉が返ってくると、表情は更に明るく楽しげなものに変化した。
「僕も見つけたんだよ! 可愛いよね、トープス」
独特の方法で上機嫌ににひひと笑って、にひるんは島の奥に目を向ける。
そこではパフの島にいるのと良く似たトープスが、ぽす、ぽす、と煙を打ち上げている。
「うーんと考えて、名前もちゃんと付けたんだよ!」
「へぇ、そうなんだ!なんていう名前?」
尋ねると、にひるんはそれはそれは嬉しそうに笑みを深めた。
 「あのね、とーちゃんとかプスプスとか色々と考えたんだけど、なんだかしっくりこなくって」
「うん」
なんだか別の物を連想しそうな名前だと思う。
ついでに故障しそうな気までする。生物なのに。
「でさ、トープスってイカに似てるでしょ?」
「イカに?・・・ああ、本当だ!ホタルイカに似ているよね」
言われてみれば、確かにトープスのフォルムはイカのそれに良く似ている。
仮に陸上を歩くイカがいたらこんな感じなのかもしれない。
イカの半分以下の数しかないあの足は、その何十倍もの強度を持っているのだろう。
きっと骨はあるんだろうな、と考えながらも、パフはにひるんに同意した。
他にも頭の先の形状など、違うところはあるけれど。似ていることに変わりはない。
「でしょでしょ。だからね、この子の名前はね」
にひるんは、照れくさそうににひりと笑う。
息を吸い込んで、そして紹介の言葉を口にした。
「『いかろす』っていうんだよ」
・・・くぐもった二発の音が、まるで効果音のように後に続いた。
向こうで、トープスが・・・可愛い可愛いいかろすが、白い煙を噴いている。
「いい名前だと思うんだけどどうかな!って、笑わないでよぉ、パフ!」
「ご、ごめんね、おかしかったわけじゃなくって!」
あまりに可愛らしい発想に、ついつい笑みが零れてしまう。
ひとしきり肩を震わせて、深呼吸して、謝って。
パフは口元が緩まないように気をつけて、言いたかった言葉を口にする。
「本当に、いい名前だと思うよ。ギリシャ神話の登場人物になぞらえたんだね?」
「そう!だけどね、飛んでいくのは煙だから、いかろすは墜落したりしないんだよ」
ねっ、とにひるんはいかろすに声をかける。
話を聞いていたのかいないのか、いかろすもぽすっ、ぽすっと返答する。
すっかり仲が良さそうな2匹を見て、クリームパフはそっと微笑んだ。
霧を纏わない風が吹く。
それは自分の島と同様に心地が良くて、彼は風に髪を遊ばせる。
7日間の、長いようで短かった宝探し。
その成果が、小さな幸せが、確かにここで暖かく実を結んでいる。
(僕も、トープスと仲良くなれるかな?)
答えはきっと、空間と時間を経た、その向こう側に存在している。
2匹に別れの挨拶をして、また会おうねと言葉を交わして。
クリームパフは呪文を唱える。
自分の島に戻って、同居人の増えた新しい時間を過ごすために。
(まずは、名前を決めないとね)
だってそうじゃないと、いつまでも他人行儀のままだから。


楽しかった宝探しは終わったけれど、何故だろう、残念だとは思えないよ。
集めた宝物と、眺める度に蘇る思い出。
そして、これから新同居人と作っていく、きっと楽しくなるはずの毎日。
どれもdoodooでは手に入らない、かけがえのない財産だと思うんだ。
それに十分過ぎるくらいわくわくしたし。何より、君も楽しんでくれたからね、シュー!

 

Special Thanks!  

 

 


 

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