TREASURE HUNT


first day / second day / third day / fourth day / fifth day / sixth day / seventh day

Text


  


<fourth day>


逆さになった砂時計から、白い砂がさらさらと零れ落ちる。
開き始めた茶葉はふわりと浮かんではすうっと沈み、ティーポットの中でワルツを踊る。
最後の一粒が細いガラスの隙間を通って雪山の上に降りかかり、クリームパフはポットを持ち上げた。
茶漉しの細かな網の目をくぐりぬけてティーカップへと注がれた紅茶は、透明な赤に染まっている。
「ハピはストレートとミルク、どっちにする?」
「ん〜とね、ミルクでお願いします!」
なぜかぴしりと姿勢を正して、Happinessが言う。
笑ってパフは白い手の先で砂時計をくるりと返す。雲から降る雪のように、砂が降り積もっていく。
砂山の標高を目で測り、タイミングを見計らってから、ティーポットを傾ける。
もう1つのカップへ新たに注がれた紅茶は深く濃い色をしていた。
次いでミルクを注ぎ、ティースプーンでかき混ぜると、できたてのミルクティはまろやかな色の渦を描く。
その様子を、Happinessが目をきらきらさせながら眺めている。
ソーサーに乗せてティーカップを差し出すと、Happinessの顔が輝いた。
「パフ、ありがとう!」
「こちらこそ、無理を聞いてもらったしね。ありがとう、ハピ」
言ってクリームパフは、ティータイム公園から貰ってきたクッキーをかりり、とかじる。
勧められてミルクティに口をつけたHappinessは、はんにゃりととろけそうな笑顔になる。
最大サイズのジュラファントと最小サイズのラヴォクスの和やかなお茶会。
BGMは時折ちゃりん、と響く済んだ硬質の音色。
傍らではムシクイのシューが、昨日の倍の規模になったコインの山への登頂に挑んでいる。
ムシクイという生物は、両手を持たず、体の割に足も小さくて華奢にできている。
つまり、走るのは速くてもバランス感覚が非常に悪い。
そしてシューもその例に漏れず、見る間に足を滑らせ金貨の雪崩に巻き込まれる。
危うく自分の島で遭難を初体験するところだった。


昨日できなかったHappinessとのお茶会を終え、シューのために借りたコインもきちんと返して。
すっかりご機嫌なシューの見送りを受けて、クリームパフは1人でG.L.Lへと出かけていった。
宝探しは大変だけれど、やっぱり自分1人の力で探してみたい。
宝箱を見つけるまでの短い時間は、何物にも変えがたい緊張と興奮、喜びをパフにもたらしてくれる。
まずは、今日も混雑しているG.L.L中央広場へ。
『ムシチョウに乗ったピグミー』の黄金像を囲むように敷き詰められた、レンガの上を進んでいく。
いつものように地図に触れると、G.L.L城門前に移動した。
真っ直ぐな道を通って、リヴリー達が続々と城に入っていく光景に、クリームパフの期待も膨らんでいく。
気合を入れて、パフはG.L.L城内へと飛び込んでいった。
今日でこのG.L.L城での宝探しイベントは4日目。
イベントは7日間を予定しているから、これで半分以上が終わることになる。
初日にアタリ宝箱が置かれていたのは1階。2日目は2階。
更に3日目は3階だったと来れば、4日目は4階、と考えるのは、もはや当然ともいえるかもしれない。
でもしかし。それでは6日以降が続かない。
4階ならば水と風の間や火の塔の中央部分が相当するし、火の間は5階分の高さがあるが、6階はない。
地下室を1回分で数えても、丸一日分が足りなくなる。
それに、いくら何でもそこまで単純な配置にするはずがない、とパフは考える。
確かにここまで必ず1つの宝箱はアタリの宝箱の位置を示す道案内代わりに使われている。
単純といえば非常に単純な配置。
それでも、このまま前回以上に難しい配置にしたならば、今後の難易度を上げるのが難しくなる。
・・・それならば。
この辺りで一度参加者達の裏をかいて、1階に配置するというのはどうだろう?
塔や地下室にあるという考えの方がありそうだけれど、そっちの方がイベントとしては面白そうだと思う。
ちょっとした『裏切られる期待』をこめて、パフは1階を探索していく。
いつものように右へとすすんでいくと、あっさりと最初の宝箱が姿を現した。
手ごたえがないのは残念だけれど、ここまでほとんど毎回、1階では少し手間取っている。
今回はすぐに見つけられたことが、何だか素直に嬉しくなった。
それは手がかりの発見に対してで、アタリかもしれない宝箱の発見が嬉しいわけではない。
流石にこんな場所にアタリの宝箱を置いていたならば、裏をかくどころか簡単すぎると叱られる。
すっかり扱いに慣れた南京錠を外し、蓋を引き上げると、風圧でいつものハズレの紙がひらりと揺れた。
ここに宝箱があるなら、半分冗談だった1階の可能性が高まったような気がして、パフの口元が綻ぶ。
今までアタリよりも下の階に、無駄に宝箱が設置されたことは1度もない。
2日目も3日目も、参加者を誘導する位置に1つ置かれていただけだった。
となると、ひょっとしたら本当にアタリの宝箱は1階に置かれているのかもしれない。
自分の考えにわくわくしながら、クリームパフはいつものように奥へと移動する。
そしてそこから5部屋離れたつきあたりの部屋で、拍子抜けするほど早く2つ目の宝箱を発見した。
今まで宝箱の配置は1つの階層に1つか2つで、ハズレが同じ階に2つ置かれていたことはない。
となると恐らく1階2つめのこれが、アタリの宝箱。
裏をかかれた『やられた』思いと、裏の裏をかいた満足感が、まだ宝箱を開けてもいないのに胸に宿る。
自分の推理があっているのかどうか、それを確認しようと大きな宝箱へと近づいて。
「/big」
押しのけられた。
急にその部屋の内にいた1匹がクリームパフよりも大きくなって、宝箱に近づこうとする者の邪魔をする。
更に/largeを連打される。注意をする間もなかった。
部屋一杯に巨大化されて、体の大きなパフは全く身動きが取れなくなる。
ぎゅうっと扉のない東側の壁に押し付けられては、他の数匹のように部屋から逃げ出すこともできない。
楕円形の腹部を圧迫される。声が出せない。ひどく、息苦しい。
微かに呼びかけられた気がして、クリームパフはかろうじて動く視線だけを彷徨わせた。
視界の端でちらりと黒を認識する。
(・・・そうか、小さなリヴリーはこの状態でも動けるんだ)
今まで最大サイズを保ってきたけれど、こうなると小さくなる算段を考えなくもないパフである。
どのくらい、経っただろうか。
ほんの数分のことだったはずなのに、まるで数十分か数時間のように長く感じた拘束が解ける。
勢いよく咳き込んで、少しずつ呼吸を落ち着かせようと、大きく息を吸って吐く。
普段もパークで巨大化してみせるリヴリーはいるけれど、姿がわからなくなるほどのものは久々だった。
悪意があってのことであれば、悲しいものだとパフは思う。
重さに動けなくなるのも久々で、ようやく回復したクリームパフは溜息をついた。
思い出して慌てて周囲を見回したが、知っている顔はいなかった。
空耳か、本当に呼ばれたのか。
後者だったら申し訳ないなと気にしつつも、改めて宝箱に目を向ける。
あれだけのことがあったばかりなのにひしゃげてもいなければ傷一つついていない。
見た目はそれほどでもないというのに、どうやらよっぽど頑丈にできているらしかった。
今度は安堵の息をついて、今度こそかけられた鍵を解除した。
瞬間、まだ手をかけてもいないのに勝手に蓋が跳ね上がる。
蓋を下から押し上げていたものの正体は、青々と伸びたカラフルで不思議な植物だった。
ひょろりと伸びた茎の左右に倒卵形の葉が互生になっている、パフの頭から口までほどの長さの植物。
横へと分岐した部分から赤や黄色、水色に丸くてカラフルな果実が実っている草。
その近くから白に近い薄ピンクの可憐な花がふわりと咲いている、草。
『水フウセン草』。
茎を持って軽く揺すると膨らんだ果実から、ぴちゃぴちゃと小さな水音がする。
不思議な見た目にぴったりの可愛らしくて不思議な名前に、パフは小さく笑みを零した。
何故だかこれにも見覚えがある気がする。
けれどどこで見たのか、脳の端っこに記憶が引っかかってしまったようで思い出せない。
気にはなったがそれらしい島も思いつかないので、また後で考えることにした。
それは大切にしまっておき、2階へと続く木の元へと歩みを進める。
3つ目の宝箱は2階にあるだろうと踏んでいた。
1つだけのハズレ宝箱があるのは、隣り合った階だと既に相場が決まっている。
2階へ移動し、考える。
この前は確か、この部屋の東側に宝箱が置いてあった。
なら今度は西かなと適当に扉をくぐったパフは、本当に宝箱があるのを見て思わず盛大にずっこけた。
何匹かの視線が向けられて、わたわたとパフは起き上がる。恥ずかしい。
不覚にも前足をちょっと擦ってしまったらしく、ほんの少しぴりぴりした。
いつもの動作を繰り返し、蓋を開けて『ハズレ』の文字を眺めながら、こんなに簡単でいいのかな、と思う。
妙に運がいいのか勘が冴えているのか。
完全に1本道で、1度も道を間違えず辿り着いてしまうと、嬉しいのか不思議なのか複雑な気分になる。
帰り道、広場に集まっていた数匹がアタリは3階にあると思い込んでいたと話しているのを耳にした。
普通はそう思うよね、と、捻くれた思考回路で1階を探した自分に苦笑して。
「/home」
ここは素直に自分を褒めることにして、パフはG.L.Lを後にした。
島に戻ると、シューが、モウ見ツケテ来タノカと言いたげに、驚いた顔で出迎えてくれた。
ヤケニ早カッタナと目を丸くしているムシクイに、パフは事の顛末を話して聞かせる。
感心して聞いていたシューだったが、水フウセン草を取り出すと目が険しくなった。
四方からじっくり眺めた末に、ダカラコウイウノハオ宝ナンテ呼バナイダロと、足を踏み鳴らして怒り出す。
向こうにやってしまおうとして、シューは頭で実をぐい、と押す。
途端、水音の混ざった不思議な音色が実の中から外に向かって一気にはじけた。
同時に中から大量の水がぱしゃりと零れ出て、シューを頭からびしょ濡れにした。
突然の意外な展開に目を白黒させているシューを見て、パフは既視感の正体に思い至る。
あれだ。
この世界、Livly Islandが2周年を迎えたとき、主なパークにたっぷりとかざりつけられていた草だ。
つつくと割れる、色とりどりの実がまるで電飾や風船のように店を彩っていたのを思い出す。
割ったらその下からクロヤマアリが出てきてびっくりしたのは、確か餌屋のやどかり亭だったか。
巨大化騒ぎが起こったのが、宝箱を開ける前で良かったと思う。
そうでなければ、繊細なこの実は簡単に押しつぶされて、ぴしゃんと割れてしまっていただろうから。
その時よりも随分小さくなった水フウセン草を島に飾る。
イベントの時みたいに砂の像でも作ろうかなと、クリームパフは考えて笑った。

これも素敵な『宝物』だよね。楽しいだけじゃなく、懐かしい記憶を思い起こさせてくれるから・・・。

 

 


 

『Livly Island』『リヴリーアイランド』は、ソネットエンタテインメント株式会社の商標です。
リヴリーアイランドに関わる著作権その他一切の知的財産権は、
ソネットエンタテインメント株式会社に属します。
このサイトは『リヴリーアイランド』およびソネットエンタテインメント株式会社とは
一切関係がありません。

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送